4 ビアンカ

 ルナとアルミスは一晩掛けて、南の町に着いた。

「アルミス、疲れてないか?」

「僕は平気ですよ」

 アルミスはいつも通りけろりと笑った。

「エンデルさんに会うのも久しぶりだなぁ。手紙のやり取りはちょいちょいするんですけど、直接会うのは何ヵ月ぶりかな。もう覚えてないや」

 二人は南の町から草原を目指した。

 この辺り一帯で一番大きく開いた土地で、海原のような草の波が延々続いている。南の町は森と隣り合わせなので、エンデルは森と草原の境目で二人を出迎えた。近頃よく顔を合わせるルナよりも、久々に会うアルミスの方に手を上げて、エンデルは凭れていた木の幹から背中を離した。

「アルミス、久し振りだな」

「エンデルさん、お元気そうで何よりです」

 エンデルは懐中時計を見た。

「迎えが来るまであと三十分か。ところでルナ、お前、どうしてヴァジエーニ様に呼ばれたんだ。心当たりでもあるのか?」

「私にもよく分からない。ビアンカからの手紙には、理由は何も書かれていなかったから」

「王都へ行けば、すぐに分かることですよ」

 三人が待っていると、約束通り、空を飛ぶ空獣が、背中にゴンドラを乗せてやって来た。ゴンドラには、三人の迎え役を任されたビアンカが乗っていた。

「みなさん、お久し振りです!」

 少女時代と何も変わらない明るい笑顔でビアンカは三人を出迎えた。

「ルナちゃん、会いたかった!」

 ビアンカはルナを見るなりすぐにゴンドラから飛び降り、ルナに抱きついた。華やかな金髪が空中に揺れた。ルナも飛び込んでくるビアンカを受け止めた。

「ビアンカ、私も会いたかったよ。元気だったか?」

「はい。ルナちゃんも大変だったんでしょう? 毒が強くなっちゃって。もう大丈夫なの?」

「お陰様で。もうすっかりいいよ」

「それなら良かったです。アルミス君にエンデル君も、お久し振りです」

「ビアンカさん、ご無沙汰しています。僕たちは、みんな元気ですよ」

 アルミスが人懐こく笑って言った。

「二人とも、全然変わっていませんね。懐かしいです」

「ビアンカ、ヴァジエーニ様はルナに何の用があるんだ?」

 エンデルが訊ねると、ビアンカも首を捻った。

「それが、私にもよく分からないんです。ただルナちゃんに会って、どうしても伝えなくちゃいけないことがあると仰るばかりで。謁見すれば分かることですから、そろそろ行きましょうか」

 ビアンカに促され、三人はゴンドラに乗り込んだ。中には向かい合った椅子が据えられていて、一つの椅子に大人が二人座れるようになっていた。四人は男女に別れて向かい合って座った。

「王都へは二時間ほどで着きます。みなさん、お疲れでしょうからどうか休んで下さい」

 空獣は翼をはためかせて飛び上がった。優雅に飛ぶ空獣のゴンドラは揺れもなく静かだった。ビアンカは隣に座るルナに、王都での日程を知らせた。

「ルナちゃん、謁見は明日の夜です。今日はゆっくり休んでもらって、明日は夕方から謁見の準備をしますので、よろしくお願いします」

 ルナは頷いた。

「うん、よろしく頼む」

 ビアンカは向かいの椅子に座るエンデルとアルミスを見た。

「お二人はどうされますか? ヴァジエーニ様はお二人にも会いたがると思うんですけど」

 エンデルが首を横に振った。

「俺たちは万が一の事態に備えて待機する」

「そうですね。僕たちは遠くから様子を見ていた方がいいでしょう。何が起こるか、分かりませんからね」

「では、そのようにお伝えしておきますね」

 空獣は王都を目指して一直線に飛んでいった。

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