2 手紙のいざない

 ルナの元に、二通の手紙が一度に届いた。一つは北の山のアルミスから、もう一通は王都で王邸の給仕係をしているビアンカからだった。

『ヴァジエーニ様の聖獣が急激に衰えています。ヴァジエーニ様ご自身に何かあったようです。』

『ヴァジエーニ様がルナちゃんに直接会いたがっています。どうしてもお話ししたいことがあるそうです。こちらにいらっしゃるようなら王邸の空獣がそちらにお迎えに上がります。お返事をお待ちしています。』

 二人の手紙を眺めながら、ルナは厳しい顔をした。何か良くないことが起ころうとしている。それが二人の手紙からありありと伝わってきた。王都から空獣の迎えを寄越すと言ってくるくらいなので、そんなに猶予はないのだろう。考えている暇はなかった。ルナはアルミスとビアンカに手紙を返し、二人の弟子にはこう伝えた。

「私は少し、王都へ行かなければならない。長く小屋を空けることになるが、どうか行かせてほしい。私はヴァジエーニ様にお会いしたい」

 逞しく成長した二人の弟子は快く頷いた。

 ルナはエンデルやリーダーも交えて二、三日、仲間たちと密に連絡を取り合った。ビアンカから伝わってくるヴァジエーニ王の懇願は並々ならぬもので、ルナにも時間がなかった。今回の危機を察した仲間たちも王都の様子を見に、ルナに同行することになった。ビアンカとリーダーは元から王都にいるので移動する必要はない。ルナとエンデルとアルミスが南の草原まで行き、そこで空獣の迎えを受けることになった。南の森にいるエンデルは直接草原へ行くが、一番長旅になるアルミスは一晩ルナの小屋に泊まることになった。小屋を空ける準備はぎりぎりまで掛かったが、どうにかアルミスを迎える頃には整った。

 アルミスが姿を見せると、ルナよりもエクラやノクスの方が彼の来訪を喜んだ。

「アルミスさん、いらっしゃい!」

「エクラちゃん、この前は北の山に来てくれてありがとう。元気にしてた?」

「はい!」

「それから、ノクス君」

 アルミスはノクスのそばに寄り、小声で声を掛けた。

「手紙、ありがとう。僕、嬉しかったよ。あのドリンクは君の口に合ったかい?」

 ノクスは微笑んで頷いた。

「こちらこそありがとう。あれ、とてもおいしかったです」

「それならよかった」

 結局一番最後にアルミスに言葉を掛けたのは、家主のルナだった。

「アルミス、よく来たね」

「ルナさん、一晩お世話になります。案外早い再会でしたね」

「そうだな。もっと嬉しいことで再会したかったが、そうもいかなかった」

「仕方がないですよ。みんな忙しいですし、こういう理由でもないと、集まることなんてないですからね」

「明日、日が昇ったら立つ。それでいいね」

「はい。僕はそれで構いません」

 アルミスは居間の出窓から外の景色を眺めた。

「この森に来るのも久しぶりだなぁ。何年ぶりかな。いつもルナさんに来てもらってばっかりですもんね。この前はノクス君を一人にしてしまって、申し訳なかったな」

 ノクスは首を振った。

「俺は気にしてないよ、アルミスさん」

 アルミスは注意深く窓の外を眺めてから、ルナの方へ振り向いた。

「ところでルナさん、あの幽霊はどうしました?」

「ああ、レムか? あの子なら大丈夫だよ。この小屋には近づかないよう、注意しておいたからね」

 エクラはお茶を用意しながらくすくすと笑った。

「清く正しく幽霊を恐がったせいでレムに好かれて求婚までされちゃうなんて、アルミスさんも大変ね」

 アルミスはぞぞぞと背中を震わせた。

「よしてくださいよ。僕はあんな恐い幽霊と結婚なんかしたくありません。第一、人間と幽霊が結婚なんてあり得ないでしょう?」

 おろおろ怯えるアルミスの姿に、小屋は一時笑いに包まれた。

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