3 姉妹

 ルナの耳には涼しい鋏の音が続いていた。エクラを預かってから十年。目を閉じていると、十年の時が色々に思い返された。改めて思い返してみると、元気に笑っているエクラの姿しか思い浮かばない。時には泣いたり怒ったりもするが、この小さな小屋の中で、いつも明るく前向きに振る舞う姿が、小屋を賑やかに盛り立てているのだった。

「エクラはいつも元気で情にも厚くて、とても良い子になった。一番かわいい時期を親御さんに見せてあげられなくて申し訳ないよ。成長する姿を、親御さんも見たかっただろうにな」

 ソラは笑った。

「うちはきょうだいが多いので、親も子供の成長なんて見飽きたなんて言ってますよ。本当はそうではないのでしょうけれど。ここへ来たがったのはエクラ自身ですし、私たち家族もエクラの成長を遠くからではありますが見守ってきました。エクラを育てて下さって、ありがとうございます。母や父も、ルナさんには感謝してもし切れないと良く言ってますよ」

「そう言ってもらえるとありがたいよ」

 ソラは一つずつピンを外し、ルナの髪を梳きながら散髪を進めていった。前髪も整えてもらい、ルナはすっきりした顔で椅子を立った。

「ありがとう、ソラ。気持ちが良かったよ。やっぱり髪を整えるのは良いものだね」

「喜んでいただけて良かったです。お疲れ様でした。エクラ、あなたはどうするの?」

「あたしは町に帰ったときにやってもらう!」

「あら、どうして?」

「お姉ちゃんに甘えてるところを二人に見られるのが恥ずかしいから」

 ルナとノクスは顔を見合わせて笑った。ソラも苦笑いをしている。

「いいじゃないの。髪を切るだけよ。恥ずかしくなんかないわ」

「いいの! 帰ったときにしてもらう」

「分かったわ。じゃあ、また今度ね」

 散髪が終わるとみんなで手分けをして部屋の片付けをし、休憩に入った。エクラはいつになく張り切ってお茶の準備をした。

「お姉ちゃん、今日は来てくれてありがとう」

 エクラは姉の隣に座って肩に凭れた。甘えるところを見られたくないと言った割に、しっかり甘えているように見えた。

「エクラやみなさんが元気で良かったわ。ちゃんと頑張ってるみたいで、偉いわね」

「へへっ、何か照れちゃうな」

「お父さんとお母さんも心配してるから、また帰ってきてね」

「うん」

 ソラはルナやノクスにも視線をやった。

「お二人も、本当にありがとうございます。エクラが毎日元気で頑張っていられるのは、お二人がいて下さるお陰です。差し出がましいお願いですが、どうか今後もエクラをよろしくお願いします」

「町のご家族にも、よろしくお伝えしてくれ」

「はい」

 小さな子供がいるのでソラは長居ができない。お茶を飲み終えると帰る準備をした。

「ミーリーちゃんはお母さんが見てくれてるの?」

「そうよ」

 ルナもソラを気遣った。

「大変なのに来てもらって悪かったね」

「いいんです。娘は母に懐いているので半日くらいなら目を離しても大丈夫なんです。私もちょっと息抜きをしたかったので、今日は楽しかったです」

「お姉ちゃん、気を付けて帰ってね」

 エクラに言われると、ソラはエクラの頭を撫でた。

「エクラ、体に気を付けてね。あんまりみなさんにご迷惑をお掛けしないようにね」

「お姉ちゃん、ありがとう。お姉ちゃんも元気でね。また今度町へ帰るから」

 ソラはにっこり笑うと、みんなに頭を下げて小屋を後にした。

「お姉ちゃん、気を付けて帰ってね! バイバイ!」

 小さくなっていく姉の背に、エクラは元気に手を振った。

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