後編 生き方

 ルナとリーダーが顔を合わせるのは何年ぶりのことなのか、本人たちにももう分からなかった。数年会わなかったうちに、幼かったノクスとエクラも成長し、リーダーを驚かせた、旅の報告のため、しばしば王都へ帰るリーダーは、その地に住むビアンカとはよく顔を合わせるらしかった。

「アルミスの奴とも随分会わないな。のんびりやってればいいが」

「北の山へは寄って行かないのか?」

「古代言語の資料を渡してやりたいとは思ってるんだが、まずは王都へ帰るのが先だな」

「私たちには会ってアルミスには会わないなんて、アルミスが不貞腐れなければいいが」

「エンデルにもそう言われたんだが、まぁ、後で謝っておくさ」

 暗号作成の好きなアルミスは、リーダーが世界中から集めてくる古代言語の資料をこよなく愛し、その研究に没頭しながら新たな暗号作成に精を出していた。身なりを気にしない悪い癖はあるが、人と会うことが嫌いなわけではないので、リーダーに素通りされるとアルミスはきっと拗ねるに違いない。

「ビアンカも元気にやってるよ。今じゃ給仕係の中でも相当なお偉いさんになったそうだ」

「立派にやってるんだな。私もビアンカに会いたい」

「ビアンカの奴もそう言ってるよ。なかなか気軽に会える距離じゃないがな。エンデルのことは――俺よりお前さんの方が詳しいだろうから、別に言うことはないな」

 ルナはそっと微笑んだ。

「まさかリーダーが寄ってってくれるとは思わなくて驚いた。久しぶりに会えて嬉しいよ」

「まぁ、大変な目に遭ったと聞いたからな。見舞いみたいなもんさ。無事で良かったよ、ルナ」

「ありがとう、リーダー」

「ノクスとエクラは幾つになったんだ。随分立派になったじゃないか」

「エクラが十七で、ノクスが十六だ。二人とも良くやってるよ」

「いい弟子に恵まれたな。お前さんたちを見ていると、こうして穏やかに暮らすことも悪くないもんだなと思えてくるよ」

「……でも、また旅に出るんだろう? それがリーダーの生き方だから」

 彼は、かっかっかと笑った。

「良く分かってるじゃないか。俺は旅からは逃れられないんだよ」

「私は好きだよ。リーダーのその生き方が」

 彼はソファーの背凭れに豪快に腕を乗せ、満足そうに笑った。

「相変わらずだな、ルナは。誰のことでもすぐに好きだと言う。情の深い奴だよ、お前さんは」

 ルナもにっこりと笑った。

 小さい頃、朝から夕方まで王都の町を庭のように走り回ったことを思い出した。リーダーはその渾名の通り、みんなを引っ張ってどこへでも冒険へ出掛ける勇ましい子、エンデルははにかみ屋のいたずらっ子、アルミスは本を読むことが好きなのんびり屋、ビアンカは資産家令嬢のおっとりした性格、ルナは誰にでも興味を持つ子供。みんなそのまま大人になった。大人になってもあの頃の面影がまだ色濃く残っていた。懐かしい。嬉しい。楽しい。そんな気持ちが自然と湧いた。

「みんな変わらないよ。みんなが元気でいてくれて嬉しい。ほっとする」

「そうだな……」

 あの頃の王都が毎日暮れていったように、森もまた、暮れていこうとしていた。

 翌朝、リーダーは王都へ立つことになった。旅の報告をヴァジエーニ王にするというので、ルナは痛み止の薬をリーダーに託した。

「ヴァジエーニ様に、痛み止の薬だ」

「ああ、届けておくよ。ヴァジエーニ様はお前の薬を大層好んでいらっしゃるそうだ」

「光栄だよ」

「用心しろよ、ルナ。まだまだ何が起こるか、分からないからな」

「ありがとう。リーダーも気を付けて」

「ああ。じゃ、世話になったな」

 リーダーは筋肉だらけの大きな背中を向けて、王都へと旅立って行った。

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