6 戦いの後

 男の体内から助け出されたシスリアはとても元気で、エクラの作った温かいスープを喜んで飲んだ。もともと王都に住んでいたらしいが、学校帰りにあの男と鉢合わせをし、そのまま捉えられたということだった。ルナはすぐに王都へ手紙を飛ばした。シスリアはやはり自分が魔法使いであることに気付いておらず、男の体内で出会った聖獣モクリのことも、単なる可愛い小動物だと思っていたようだった。自分が魔法使いであることを説明されても、シスリアはなかなか信じようとしなかった。聖獣モクリは脱出の際にシスリアの体内へ戻ったようで、どこにも姿は見えなかった。

 みんなが居間で一息つく中、ルナは一人で小屋の玄関先の手摺りに手を置き、見慣れた森の風景を眺めた。木々の間には澄んだ空気が戻っている。その視界の奥から、例の男をこの森に導いたエンデルが一人で現れた。

「全部終わったようだな」

 ルナは気が抜けたようにエンデルを見た。

「エンデル、来てくれたのか」

「まぁ、首尾くらいは確かめておこうと思ってな」

 エンデルは玄関のポーチには上がらず、ルナから少し離れた階段の柱に凭れた。

「あの男は無事お縄についたようだぜ」

「それはよかった。こちらもみんな無事だ。エンデルも少し休んで行ってくれ」

「いや、いいよ。すぐ帰る。猫を預けてるからな。みんなが無事ならそれでいい」

 ルナは遠くを見るように森を見つめた。

「あの男はかわいそうだったよ。魔力中毒に掛かって、随分やつれていた」

「自業自得だろ?」

 エンデルのあっさりした物言いに、ルナは苦笑いした。

「そうかもしれないが、普通は魔力中毒になど滅多に掛からない。何があったかは知らないが、命と引き換えにしてでも魔力が欲しいとは、恐ろしい業だよ。無理に魔力を啜れば衰弱していくことくらい、自分でも分かっていただろうに。悲しいよ」

「お前の慈悲には感心するが、そんなものをいちいち悲しんでたらやっていけないな」

 ルナは手摺りから階下のエンデルを見下ろした。

「エンデル、あの二輪駆動の人は一体何者なんだ。今回も一枚噛んでいるんだろう?」

「ただの悪趣味な成金だよ。山ほどスパイを抱えているらしいから、少し協力してもらった」

「秘密主義はお互い様だから責めたりはしないが、あの人とはあまり深く関わってくれるな。嫌な予感がする」

「心配してくれてるのか?」

「深入りすると身を滅ぼすよ」

「俺とあのオヤジは二輪駆動でしか繋がってないよ。今回は人の命に関わるから二輪駆動のメンテナンスを条件に動いてもらったが、俺もあの二輪駆動以外に興味はない」

 エンデルは柱から背中を離し、ルナを見上げた。

「お前に一つ忠告しておくが、妙な情けで色んなことに首を突っ込んで、危険なことをするのはやめろ。こっちまで生きた心地がしなくなる。お前は死の淵をさ迷ったばかりだ。用心しろよ。俺だって、あんな肝が冷える思いはもうごめんだ。今度何かあっても、俺は見舞いには来ないぜ」

 ルナは苦笑いをした。

「心得ておく」

「それから、お前を襲った刺客に関して、リーダーから返事が来た。今のところ、何も変わったことはないそうだ」

「それならよかった」

 ルナはほっと胸を撫で下ろした。

「じゃあ、俺は行くよ」

「もう行くのか?」

「日が落ちたらこの森に閉じ込められちまうからな。レディーとジェントルも放ってはおけないし、もう行く」

 ルナは寂しげに微笑んだ。

「エンデル、来てくれてありがとう。気を付けて。レディーとジェントルによろしく伝えてくれ」

 エンデルはひらひらと手を振りながら、ルナの小屋を後にした。

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