5 目覚め

 朝が来た。ルナはぼんやりと目を覚ました。首を動かそうとすると、突っ張った痛みが走った。いつもの自分の部屋だった。ルナのベッドの隣にソファーが置かれ、エクラが眠っていた。

 ルナは腕を動かし布団を退けて起き上がろうとしたが、体は重く、動かなかった。

 私は一体どうしたのだろう。

 ルナはまだ、ぼんやりしていた。

「ルナ?」

 エクラが目を覚ましてルナを凝視した。何か信じられないものを見たように、目を丸くしている。

「起きたの? ルナ、起きたのね!」

 エクラは飛び起きてルナの顔を覗き込んだ。ルナはいつも通り微笑んだ。

「おはよう、エクラ。もう朝になったのか?」

 エクラは信じられないものを見たような顔をしたまま呆然と首を横に振った。

「あたし、みんなを呼んでくる」

 エクラ、待って。――呼び止めたかったが、声が出なかった。

 ノクスもトロス医師もすぐに来た。ルナが目を覚ましたことを、二人ともまだ疑っているような眼差しだった。トロス医師はすぐにルナを診察した。

「ルナ、俺が誰だか分かるか?」

 ルナは口角を上げて答えた。

「分かるよ、トロス先生。どうしてそんなことを訊くんだ?」

「自分の身に何が起こったか覚えてるか?」

「私、何かあったのか? みんな深刻な顔をして。私は元気だよ……」

 微笑みながら言うルナに、エクラは思わず声を上げた。

「ルナの馬鹿! 一週間も気を失ってたのよ! 死ぬかもしれなかったのよ! 全然元気なんかじゃないのよ……」

 エクラはルナの胸に突っ伏した。

「もう二度と会えなくなると思って心配したんだから……あたし……ルナがいなくなっちゃうと思って……あたし……」

「エクラ、泣かなくていいんだよ。どうしたんだ……」

「どうしたんだしゃないわよ。こんな危ない目に遭って……。馬鹿! 馬鹿!」

 ルナは困ったように笑うばかりだった。トロス医師は冷静に質問を続けた。

「自分に何があったのか、何も覚えてないんだな?」

「ただ夜が明けて朝が来ただけだと思ったんだが、そうではないんだな……」

 何も覚えていないルナに代わり、ノクスが説明をした。

「ルナは誰かに襲われたんだよ。北の洞窟の前で。大量の蔦に巻かれて、木に括り付けられてたんだ。覚えてない?」

 ルナはみるみるうちに顔色を変えた。大量の蔦に巻かれたことや、黒いローブを羽織った男の姿が脳裏に蘇った。記憶は途中で途切れ、そこからは何があったのか、ルナには分からない。

「そうだ。私を襲ったあの男はどうした? ノクス、エクラ、お前たち、何ともないのか?」

 弟子の二人は顔を見合わせた。

「俺たちがルナを見つけたときにはもう誰もいなかったよ」

 エクラも涙を拭いながら頷いた。

「あたしたち、クレーに呼ばれて洞窟へ行ったの」

 ルナはふっと溜め息を吐いた。

「そうか……何もなかったなら良かった……」

「ルナ、今はまだ体がよく動かないだろう」

 トロス医師に訊ねられ、ルナは小さく頷いた。

「随分危険な目に遭ったようだな。後で自分で確かめてみるといいが、呪い焼けが大分広がった。もう腹は全部真っ黒だ」

「そうか……それで体が動かないんだな……」

「強毒化したこと、自分で分かるか?」

「分かるよ。護身の呪いを受けたときもそうだった。毒でしばらく体が動かなかった……。あのときと、同じ感覚だ……」

 トロス医師は厳しい声で忠告した。

「これ以上呪い焼けが広がったら命の保証はない。用心するんだな」

 ルナは小さく頷いて目を閉じた。

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