第10章 魔脈
前編 光の魔法使い
白いワンピースを着た少女がルナの小屋に現れたのは、穏やかな午後のことだった。彼女は鍔の大きな白い帽子を被り、玄関前の階段から少し離れたところに立ち尽くしていた。出迎えたルナを作り物のような硬い目でじっと見上げている。この華奢な少女から、ルナは今まで感じたことのないような気高く孤独な気配を感じた。
「ルナ様ですね。わたくしはクランテと申します。闇の力を持った魔法使い、ノクス様にお目に掛かりたく、お伺いしました」
少女は灰色の目で訴えた。帽子から流れ出る白金のお下げの髪先が、彼女の胸元でふわふわと揺れている。彼女の独特の雰囲気を読み切ることができず、ルナは僅かに戸惑った。ルナは階段を下り彼女の目の前に立つと、改めて彼女の名前を確認した。
「クランテと言ったね」
「はい、ルナ様」
「魔力を感じる。お前は魔法使いだね」
「はい。光の魔力を持っています」
「光か。どうりで独特の気配がするはずだ。私も実際に会ったのは初めてだよ」
「お目に掛かれて光栄です、ルナ様」
「お前に悪意は感じないが……。ノクスには、何か大事な用があって来たのか?」
「はい」
大きく頷く少女の返事には芯があった。少しのことでは揺るがない、絶対の目的があるようだった。
「ルナ様、わたくしはノクス様と、マミャクを繋ぎたいのです」
さすがのルナも、この言葉には絶句した。
ルナはクランテを居間に通すと、詳しい話を聞いた。あまりに重大な話なので、ノクスとエクラには立ち入りを禁じた。
「突然の訪問になってしまい、申し訳ありません。ルナ様に警戒されることも分かった上でお伺いしました。ノクス様はもしかして、月の状態によって、体調を崩されるのではないのですか?」
「そうだよ。クランテもそうなのか?」
「はい。わたくしは新月になると、身動きが取れなくなるほど、気持ちが落ち込みます。本当に命を取られてしまうのではないかと思うほど、強い恐怖に襲われるのです。わたくしは長年、その苦しみに耐えてきました。何度も理由のない絶望に叩き落とされ、嫌でもその気持ちに向き合わなければなりませんでした。この苦しみを和らげたく、わたくしは光の魔力のことを調べました。そして知ったのです。闇の力を持つ魔法使いと魔脈を繋げば、苦しみが和らぐということを」
「それでノクスを頼ってここへ来たわけだな」
「はい。数年探し続けましたが、ノクス様以外に闇の魔力を持つ方は見つかりませんでした」
「闇の魔法使いは稀少だ。なかなか見つからないのは当然だろう。――確かにノクスは闇の魔法使いだし、この小屋に住んでもいる。ただし、今すぐに魔脈を繋ぐというわけにはいかない。他者の力を取り込むということは、自己の崩壊を起こす危険もはらんでいる。今のノクスには難しいだろう。私は認めない。時間を掛けてやらなければならないよ」
ルナの厳しい言葉にも、クランテはめげなかった。やはり意志の強い目でルナを見つめ、しっかりと頷く。
「はい、心得ております。何年掛かろうが、わたくしはよいのです」
「クランテ、お前はまだ少し幼いようだね」
「十四になりました」
ルナはそこで初めて柔らかい笑みを浮かべた。
「若いのに芯の通ったしっかりした子だね。ここへ来るのも大変だっただろう」
「わたくしにとって闇の魔力は希望です。どんな長旅だって、つらくはありません」
「頑張り屋さんのいい子だね。どのみち魔脈を繋ぐためには、ノクス本人の意向も確かめなければならない。話だけ、通してみようか」
「ルナ様、ありがとうございます。恩に着ます」
彼女は白金に光るお下げ髪を揺らして、深々と頭を下げた。
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