5 仲間たち
ルナとアルミスは三十年前のクーデター火難の生き残りだった。
副都カロニアに反乱軍が潜み、しばらく王都への直接攻撃を窺っていたが、王軍が反乱軍へ攻撃を仕掛けたことで反乱軍も抵抗し、カロニアの町に炎の魔法を放ったのだった。カロニアの町は焼け、ルナもアルミスも多くのものを失った。
学校すら通えなくなった子供たちのために、王邸の図書館が解放され、そこで図書館学校が開かれた。同じ歳のルナとアルミスはその門下で、他の同年の子供たちと仲間になったのもこのときだった。それ以来、大人になっても仲間たちは親交を続けていた。
「リーダーは世界中を旅する冒険家になってろくに帰ってきませんし、王都のビアンカさんのところは行くまでに一週間も掛かりますし、なかなか会えなくて寂しいですね」
「そうだな」
「僕とルナさんとエンデルさんだけが、どうにかこうにか年に一、二度顔を合わせられる程度ですからね。僕にとってお二人との定期報告会は、魂の洗浄のようなものですよ。懐かしくて、嬉しい」
「私もそう思うよ」
「……さて、僕もこの辺で酒は終わりにしないと。またルナさんとエクラちゃんに醜態を晒しますからね」
ルナは出迎えられたときの綺麗ではないアルミスを思い出し、ふっと吹き出した。
「いいじゃないか、私たち二人で喜んで介抱するよ」
「よしてくださいよ。僕はそこまで落ちぶれてません」
アルミスは酒瓶にきっちりと蓋をした。夜も更けて、うっすらと眠気がさしてきた。涼しい風が心地よかった。
「今日はいい息抜きになったよ。ありがとう、アルミス」
アルミスはふっと笑った。
「ルナさんはさっきからありがとうばっかりだなぁ。僕も元気が出ましたよ。――ありがとう、ルナさん」
行きも長旅なら帰りも長旅なので、ルナとエクラがこの北の山にいられるのは一晩だけだった。
静かな夜が過ぎ、澄んだ朝日が昇ると、二人はすぐに帰り支度を整えた。
昨日、カロン老師に怒鳴られていくらか綺麗になったはずのアルミスは、夜が明けるとまた綺麗ではないアルミスに戻っていた。ルナもエクラも笑いを堪えられず吹き出してしまい、アルミスにじっとりと睨まれてしまった。黒縁眼鏡もやはり鼻の上で曲がっている。カロン老師は呆れて怒る気にもならないようで、疲れた溜め息を深々と吐くだけだった。
別れ際、綺麗ではないアルミスが、チェリービネガーの瓶を二人に託した。
「ここに来られなかったノクス君に、お土産です。ルナさん、エクラちゃん、いつかみなさんが三人揃ってここへ来て下さる日を、僕は待っています。ノクス君も、今は無理でも、大人になったら体質が変わって、月や星の光を浴びられるようになるかもしれない。もしそうなったら、今度は三人で、ここへいらして下さい。僕、待ってますから」
ルナの胸もエクラの胸も、ふいに澄んだ感情で一杯になった。人懐こいエクラはアルミスの何気ない親切がたまらなく恋しくなったようで、アルミスの胸にすがった。
「アルミスさん、ありがとう」
「エクラちゃん、気を付けて帰ってね」
エクラは頷くと、アルミスの胸から離れた。
「カロン先生、アルミス、お世話になりました」
カロン老師はこっくりと頷いた。
「ルナさん」
アルミスの瞳は微かに光っていた。
「どうか体に気を付けて、お元気で。――僕は、貴女とエンデルさんが敬愛し合っているところを見るのが、今でも好きですよ」
ルナは微笑んだ。
「ありがとう、アルミス。元気でな」
「また会いましょう」
ルナは深く頷いて、アルミスたちの家を後にした。
「アルミスさん、カロン先生、さようならー!」
エクラの放った元気な別れの挨拶が、山波に何度もこだました。
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