第9章 ノクスとエクラの修行
1 宿題
北の山から帰ると、ルナたちは山ほどある土産を木こりのおかみたちに手渡し、厚く礼を言った。ルナとエクラは旅の片付けを済ませ、次の日にはすっかり元の生活に戻った。
エクラは北の山で観察した星空をノクスに見せ、グレイビ老師への宿題を進めた。ノクスは星空を見られないので、エクラが観察をする。エクラは星や正座の名前を知らないので、ノクスが調べる。二人がそれぞれ得意なことやできることを分担し、自由研究の課題を仕上げる。連名で提出すれば、きちんと課題として認めてくれる。
「六月四日の二十時、北の空よ」
「こことは微妙に緯度が違うから、調べられない星もあるかもしれない」
「そうなったら、地下書庫の図鑑で調べましょう」
ノクスは頷いて星座盤とエクラの観察記録とを見比べた。
「エクラ、星の大きさはちゃんと確認した?」
「もちろんよ! この前それで失敗したんだもの。同じ過ちは繰り返さないわ」
ノクスは指を指しながら一つ一つ星の位置を確認していった。
「ああ、ちゃんと観察できてるよ。間違いない」
「よかったぁ」
ノクスは照合できた星に、名前を書き込んでいった。取っ掛かりができれば照合は容易く進み、多くの星に名前がついた。冷静に資料を見比べながら課題をこなしていくノクスを見て、エクラはふと声を掛けた。
「ねぇ、ノクスは大人になったらどうするの?」
「え?」
ノクスも思わず顔を上げてエクラを見た。
「あたしたちは修行中の身でしょう? 二十歳になったらここを出て、別の場所で最低五年は修行をしなきゃいけない。その五年の修行が明けたらまたここへ戻っていいってことになってるけど、ノクスは将来の修行場所、もう見つけた?」
「見当は、つけてあるけど……試験に受からないと駄目だから」
「そっか。あたしもお医者さんの修行をするつもり。まだどの診療所にお世話になるかは、決めてないんだけどね」
エクラはソファーの背凭れに勢いよく凭れた。
「二十歳なんてまだまだ先だと思ってたけど、あたしはあと三年になっちゃった。何だか寂しいな……」
「俺も、あと四年……」
二人は思わず黙り込んだ。きんとした静けさが耳に痛く鳴り響いた。
「まぁ、二十歳になる前に、ちゃんとグレイビ先生の学校を卒業しなきゃいけないんだけどね」
「そうだな……」
そんなことを話していると、地下書庫で作業をしていたルナが居間へ上がってきた。
「あれ? ルナ、もう終ったの? 新しい定期報告書、作ってたんでしょう?」
エクラが訊ねるとルナはくたびれた顔で笑った。
「記述に苦労してね、疲れたから休憩に来たんだよ。せっかくアルミスからチェリービネガーをもらったのだから、いただこうか。お茶の時間だ」
「わーい! あたしも準備、手伝うわ」
エクラは興奮気味にノクスに言った。
「アルミスさんがノクスに飲んでもらいたいからって、チェリービネガーをくれたのよ」
「……俺に?」
「ノクスが月や星を見られるようになったら、今度は三人で北の山に来てくださいって言ってたよ、ねぇ、ルナ?」
ルナもにこにこして頷いた。
「アルミスは私たち三人を待っててくれるそうだよ。今回は私とエクラと二人だけしか行けなくて、ノクスに申し訳ないと言っていた」
「そんなこと気にしなくてもいいのに」
「さぁ、休憩だ。二人とも、準備をしよう」
「はい!」
いつも通り、エクラが元気よく返事をした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます