5 ひねくれ妖精たちのお茶会
ある晴天の昼下がり、ルナは出窓の広い棚に、ミニチュアのテーブルセットを設えた。本来なら人形用の玩具だが、体の小さな妖精のお客人にちょうどいい大きさなので、実際の家具として使う。白いレースのテーブルクロスを敷き、茶器を並べていると、自然と童心に帰ってうきうきした。
小さなお客人たちは二時にやってくる。うっかり窓を閉めっぱなしになどしていると、「んまっ、お客が来るのに入り口も開けておかないなんて、気が利かないわねぇ」「危うくあたくしたち、窓にぶつかるところでしたわ」「そうよそうよ」などと、遠慮のない苦情を突きつけられてしまう。ルナは出窓を開け、お客人が来るのを待った。
「ルナ、こっちもできたわよ」
焼き菓子担当のエクラも小さな篭や皿に出来立ての菓子を乗せて出窓のテーブルに運んできた。
「ありがとう、エクラ。もうすぐ気難しいお客人たちが来るぞ」
「心の準備はできてるわ。どんといらっしゃい!」
やがて二時になり時計の鐘が鳴ると、窓の桟の下から三人の白金頭の妖精がにょっきりと顔を出し、何か探るように小屋の中を覗いた。実は三人とも少し前に小屋に着いていたのだが、「私たちは時間をぴったり守れる偉い客人なのよ!」と自慢できるよう、わざと時計の鐘が鳴るまで桟の下に身を隠していたのだった。妖精の気配が読めるルナにはもちろんお見通しで、桟の上に顔を出した三人の妖精を、清々しい笑顔で迎えた。
「いらっしゃい、マダムたち。待っていたよ」
三人の妖精たちはじとっとルナを見ながら、こそこそ話し合った。
「んまっ、この子ったらアタシたちのこと監視でもしてたのかしら」
「こんなグッドなタイミングで声を掛けるなんて怪しいですわ」
「そうよそうよ」
全く頓珍漢な言い掛かりだが、ルナは三人の目茶苦茶な苦情が決して嫌いではなく、にこにこ笑いながら妖精たちを招き入れた。
三人が席に着くとルナは小さな茶器にハーブティーを注ぎ、小さな客人をもてなした。ずっとそばにいては妖精たちの邪魔になるので、ルナはお茶を注ぎ終えると三人から離れた。
妖精三人はルナをじっと見たままとんでもない勢いで菓子を摘まみ、頭を寄せ合って、こそこそこそこそ文句を続けた。
「あの子たちったら、アタシたちに文句を言われたくないからって、こんなに非の打ち所のないお菓子を用意するなんて……モグモグモグモグ……」
「ほんと、つまらないですわ……モグモグモグモグ……」
「そうよそうよ……モグモグモグモグ……」
文句にならないことまで文句として囁き合っているので、端で聞いていたルナもエクラもこっそり笑った。
テーブルのお茶や菓子がなくなると、三人はぱったりとお茶会を切り上げた。
「今日はこの辺にしておきましょ」
「今度来たときは容赦しませんわ」
「そうよそうよ」
妖精たちは去り際までとことん天の邪鬼を貫いた。
「またおいで、マダムたち。待ってるよ」
ルナが言うと、三人はまたさっと頭を寄せ合って囁いた。
「仕方ないわねぇ。貴女がそう言うのなら来てあげてもいいのよ?」
「わたくしたちとっても忙しいけれど、そこまで言うなら来てあげてもいいわよ」
「そうよそうよ」
妖精たちは森へ飛び立っても、小屋が見えなくなるまで、頭を寄せ合ってひそひそ話を続けていた。
妖精たちが去った後、ミニチュアテーブルセットの足元には、いつの間に持ってきたのか、篭一杯のブルーベリーが置かれていた。素直にありがとうと言えない妖精たちからの、ささやかな感謝の贈り物だった。
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