第7章 森の仲間たち
1 木こりたち
森にも短い夏が来る。その前に、山の木こりたちが、小屋の様子を見るために山を下りてきた。森に引いた簡単な下水管に傷みはないか、小屋に修繕箇所はないか、くまなく点検していってくれる。腕っぷしが強い男職人が三人に、彼らの手助けをするおかみが二人、一晩小屋に泊まっていく。大掛かりな修繕があればもちろんそれが終わるまで帰らないが、今回は蛇口の水漏れを直すだけで済んだ。
泊まっていくといっても、五人もの客を受け入れる広さは小屋にはないので、木こりたちは天幕を張ってそこで寝起きをする。彼らを迎えたときの夕飯は外でシチューを作ると決まっている。
小屋の主であるルナや、力仕事をこなす体格のいい職人たちよりも、豪快な明るさでてきぱき立ち回る二人のおかみの方が始終その場を取り仕切っていた。夕方になるとルナやエクラとともに、八人分のシチューを煮込んだ。
「――それでね、この森には幽霊が出るから、下手に入ると呪われる、あなたも呪われないようにせいぜい気を付けて、なんて言われるのよ。別に呪われることなんてないのに、失礼よねぇ」
おかみと並んで人参を切りながらエクラが愚痴を言うと、おかみは体を揺すって笑った。
「あっはっは! 幽霊が恐くて森の生活はできないからねぇ」
「幽霊が来たって友達になっちまえばいいのさ! あたしらのシチューを食ったらね、幽霊さんも生きてる人を呪うなんて馬鹿なことは忘れて、ハッピーになっちまうんだからね!」
二人のおかみは森中に響くような大声で笑った。
(幽霊って、シチュー食べるのかしら……)
エクラは苦笑いをしながら、切り終えた人参を鍋に入れていった。辺りにいい匂いが漂った。
賑やかな食事が終わり、静かな夜更けが来ると、ルナと棟梁のおかみは、天幕の下で取り留めのない雑談をした。
「おかみさん、来て下さってありがとう。これで今年の夏も安心して過ごせます」
「嫌だよ、ルナちゃんったら、水くさい。それがあたしらの役目なんだからさぁ。気にするんじゃないよ」
おかみはルナに温かいお茶を出した。
「最近、変わったことはないのかい? 困ったことがあったら、いつでもあたしたちが助けに来てあげるんだからね。遠慮するんじゃないよ。何たってねぇ、ルナちゃんはもうあたしたちの子供みたいなもんなんだからねぇ。エクラちゃんたちと来たら、もう孫だわ! あっはっは! かわいくてしょうがないねぇ」
自分たちのことを子供や孫だと言ってくれるこの木こりの集団が、ルナは好きだった。
ルナたち三人は、それぞれ用事があれば、日付けをまたいで小屋を離れることもあるが、特にルナが小屋を留守にするときには、必ずきこりのおかみたちに来てもらうことになっている。心細い森の夜も、彼女たちがいてくれれば恐くはない。
彼らはエクラの帰郷にも手を貸してくれる。ちょっとした小屋の修繕なら、木こりたちに手解きを受けたノクスがこなしてくれる。木こりたちの存在は、ルナたちの森の生活には欠かせない。
その対価として、ルナたちはお代も渡すが、木こりたちに必要な薬も惜しみなく渡す。その薬が木こりたちをよく癒すので、木こりたちもルナを信頼し、どんなことでも手を貸してくれるのだった。
両者は持ちつ持たれつで困ったときに助け合い、足りないものを分け合って生活をしてきた。
この小さなあたたかい生活が、ルナには愛しかった。
「さぁさぁ、お飲みよ、ルナちゃん。冷めちまうからね」
「ありがとう。いただきます」
おかみが入れてくれたお茶を飲むと、言い知れない安堵感に満たされた。
ふぅ、と吐いた溜め息が、夜空に溶けていった。
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