24.終わり

 校舎を振り返った俺達は暫くの間動けずに居た。恐る恐る顔を見合わせて、また校舎を見る。

 今のは明らかに銃声だった。キョウコが撃たれた時に酷似した音。一体誰が? ……一人しか居ない。カトウユリの父親だ。

 サイレンの音が近付いて来る。車の停まる音がして、人の声と足音が聞こえて来た。それで漸く俺達は金縛りが解けた様になった。

「こっちです!」

 サノが声を上げる。救急隊員が何人かやって来てササキ達の容体を診た。が、どうやら間に合わなかったらしい。手遅れだと告げられた。酷く苦い物を噛んだ気分になる。

 そこに今度は警察がやって来た。最初はササキ達を俺達が殺したと疑った警察は、兎に角署で話を聞くから、と強引にパトカーに押し込めようとした。ワダやタジマ、サガノが泣きながら中で死んでいる連中の事を訴え、俺とサノとミヤジマで恐らく放送室にも死体がある事、校長室に自殺体がある事、校長室の死体の遺書がある事を話すと、警察は怪訝な顔をしながら手分けをし、何人かは俺達と外に残り、何人かは校舎に入っていった。

 暫くして校舎に入っていった警察が慌てて出て来て、確かに校長室に死体があった事などを話し、これは大事件だと漸く分かった様だった。放送室の鍵は開けられており、壮年の男性の死体が見つかったと云う。キムラやキョウコ達の死体も見付かり、俺達は詳しい話を聞く為に、と云って結局警察署に連れて行かれる事になった。

 キョウコ達の体は、現場検証のあと運ばれるそうだ。

 俺達が解放されたのはとっくに日の暮れたあとで、また後日改めて呼ぶかもしれないと云われて警察署から追い出された。

 最後に、君達には知る権利があるだろうと、カトウユリの父親の遺した文章の内容を教えてもらった。決して口外しない事を条件として。

 娘が虐められていた事、その娘がトラックに撥ねられて死んだ事。死後虐めの事実を知った事。自殺だったに違いないと感じた事。娘が死んだショックで妻が倒れた事、その妻が今年に入ってから亡くなった事。自分には何も残っていないと感じた事。だから復讐を決意した事。会社を売り、その金で人を雇い俺達を攫った事。学校が民家から離れた所にあるのを良い事に夜毎やって来て仕掛けを施した事。仕事で培った技術を悪用してしまった後悔。けれど俺達を集め、死ぬ様な仕掛けの中に放った事は後悔していない。ただ娘も妻も居ない世界を生きる気になれない。

 そんな内容が書かれていたそうだ。

 人を死なせた自分は、娘と妻の元へは行けないだろうが。

 そう云う一文があったと聞いて、俺は暗澹とした気分で居た。それなら俺も、俺達も、きっと天国とやらには行けないのだろう。カトウユリは結局自殺だったのか? 分からないままだが、今日死んだ奴らの死は、その責任の一端は、俺達にもある様に思えた。

 呆然と空を眺める。こんな日でも、星は綺麗だった。とん、と肩に手が置かれる。サノだった。今度はばん、と背中を叩かれる。サガノだった。

「……痛い」

「生きてるからね」

 サガノの言葉に、視界が滲む。

「……実家で良いからパトカーで送ってくれれば良いのにな」

 ワダが冗談めかして云った。ほんとだね、とタジマが頷く。

「でも、突然成人した子供がパトカーで送られてきたら、びびるんじゃね」

 ミヤジマが云う。確かに、と皆で頷いた。

「……帰りましょうか」

 スドウが云う。

 俺達は帰路についた。途中、分かれ道で一人減り、二人減り、その背を見送る度に何とも云えない気持ちになった。寂しい様な、ほっとする様な、怖い様な。

 俺は実家に帰る事も考えたが、明日は仕事だったので駅に向かう事にした。サノも実家ではなく自宅に帰る様で、同じ電車に乗る。がたんごとんと揺られながら、俺はふっと現実に帰って来た気がした。

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