15.告白
俺達は全員で一緒に動く事にした。図書室に先に行く事に決めたが、その前に腹ごしらえをする事にした。生徒用玄関前に適当に座って、もそもそと携帯食料を食べ、ちびちびと水を飲む。
その間、イトウとキリシマが二回もトイレに立った。腹の調子でも悪いのだろうか。
二回目のトイレから戻って来た時、二人共異様に顔色が悪かった。明らかにおかしい。
「大丈夫か」
声をかけると一応こちらに顔を向けるが、どこか目が虚ろだった。
「……本当に大丈夫か」
「うん……何かお腹の調子が悪くて、ちょっと気持ち悪いんだよね」
「あたしも。……ちょっと吐いちゃった」
キリシマもイトウも、額に脂汗が浮かんでいた。
その会話が聞こえていたのか、シシジョウが口を開く。
「もしかして、蛇口から出て来る水を飲んだか」
イトウとキリシマは少し驚いた様子で顔を見合わせてから、シシジョウの方を向いた。
「どうして分かるの」
イトウが問いで返す。それはつまり、飲んだと云う事だった。
「症状からして中毒だ。水道は死んでるって話だから、蛇口から出て来る水は貯水槽の物だろう。管理する者が居なくて悪くなっていたか……毒を盛られたか。発症までの時間を考えるに毒の可能性が高い」
シシジョウの言葉に、二人の顔色は更に悪くなる。
「毒って……あたし達、死んじゃうの」
イトウが泣きそうに震えた声を出す。キリシマは頭を抱えていた。
「どれくらい飲んだ」
「私は少し…掌に二杯くらい」
「あたしは結構飲んじゃった……ちょっと変な味がする気もしたんだけど、喉が渇いてて」
シシジョウの問いに、キリシマ、イトウの順で答える。シシジョウは難しい顔をして腕を組んだ。
「菌か毒かすら分からないから何とも云えないが、兎に角安静にしていた方が良いだろう。とは云え安静に出来る場所が無いか……」
「ここで休んでてもらうのが一番良いかな」
サノが提案する。シシジョウは頷いた。
「トイレもそう遠くないし、それが良いだろう。残りで図書室に行くか」
「誰か一人くらい男が残ってよ。心細いよ、あたし達だけじゃ」
「じゃあ俺が残る。頼りになるだろ?」
イトウの震える声に、ササキが答えた。
そう云う訳で、俺、シシジョウ、サノ、ミヤジマ、サガノ、スドウ、タジマ、ワダ、ナカマ、アベの十人で図書室へ向かう事になった。
歩きながら、シシジョウが口を開く。
「お前達、カトウユリを虐めていたんじゃないか」
シシジョウ以外の足が止まる。先頭を歩いていたシシジョウも足を止め、振り返った。
「ドアを開けたら落ちて来る黒板消し。鉄板だよな。俺達が最初裸だったのは、カトウユリを裸にした事があるからか? 視聴覚室のAVから考えるに、強姦騒ぎもあっただろうな。全員が加担したとは思えないから、見ていただけって奴も居るだろう。水が悪かったのは、腐った水でも頭から被せたか。ホルマリンは……何だろうな。虐めなんてやる奴の思考は読み切れん」
「……ホルマリン漬けの蛙を食えって煽ったんだ。人の気配がしてあたし達は逃げたけど」
ワダが云った。
「ちょっと!」
ナカマ、アベ、タジマがワダを責める様に見る。
「強姦はダイチだよ。俺は見張りをさせられてた。……今でも時々夢に見るよ」
ミヤジマが呟く様に云う。
「服を脱がせたのもあたし達だ。写真を撮って、馬鹿にしたりした」
止めようと縋る三人を振り払う様にワダが云う。
「六人が教室を出てったあとだよ、たまたま俺達が通りかかったの。教室を覗いたら裸の女子が居て……ダイチが、俺に見張ってろって……」
ミヤジマの声は震えていた。
「……俺、何度かカトウが虐められているのを見かけてたんだ。でも、てっきり女子のじゃれ合いだと思って、真剣に捉えなかった」
云いながら涙が出そうだった。カトウが可哀想で、自分が情けなくて。
「あたし、カトウにちょっかい出してた。さっき思い出したんだけど、ササキ達と一緒になってやってた。黒板消しも覚えがある。でも、大した事したつもり無くて……」
サガノが云う。サノも口を開いた。
「俺も思い出した。俺達三人と、女子二人でつるんで一人の女子を揶揄ったりしてた。……あの時の二人がサガノ達だったんだな」
「私、全部見てました」
スドウが云う。小さい声ながら、やけに響いて聞こえた。
「カトウさんが……襲われるのも。でも怖くて助けられなかった。普段から虐められているのも知っていて、でも私が標的にされるのが怖くて助けられなかった!」
スドウの声が徐々に大きくなる。最後は叫ぶ様な声で、生徒用玄関に残った三人にも聞こえたかもしれない。
「小学校の頃からの友達だったのに……」
顔を覆って膝を付く。啜り泣く声が響いて、居た堪れない。
「だから、カトウユリの父親に全部話したのか」
シシジョウの言葉に全員がシシジョウを見、それからスドウを見た。
スドウは泣きながら頷く。
「ここまで来れば分かるだろう。これはカトウユリの為の復讐劇だ」
薄々そんな気はしていた。けれど改めて断言されて、俺は絶望に似た気持ちを抱いたのだった。
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