12.出席簿

「見付かったのはこれだけ?」

 サガノが眉を顰めて云う。俺達の視線は、机の上に置かれた硬い表紙に向けられていた。掠れた文字は出席簿と読める。それが三冊。

 シシジョウがその一つに手を伸ばし、黒く硬い表紙を捲った。中の紙は真新しい。もしかして、スピーカーが仕込んだのだろうか。執念の様な物を感じてぞっとする。

「一年二組、担任オダマサノリ……」

 ササキが呟く様に一番上の文字を読み上げた。自然とその文字列を目が追う。それから下に並んだ名前とチェックを入れるだろうマスがずらりと並んでいるのを眺めた。

「……え?」

 サガノが困惑の声を零す。俺も、ササキも、声こそ上げなかったが多分、サガノと同じ様な顔をしていた。

「サカノキアマネ、ササキシゲル、サトウタダオミ、サノカケル、カミヂキョウコ、サガノユイ、スドウユキ」

 シシジョウが俺達の名前を読み上げる。そう、読み上げたのだ。出席簿には、俺達の名前が載っていたのだった。

 サガノが残る二冊の内一冊を勢い良く手に取って捲る。表紙には一年一組の文字。

「ワダ達の名前が載ってる」

 ササキが最後の一冊を手に取って中を見た。表紙には一年五組とある。

「こっちはキムラとミヤジマだ」

 俺とサガノ、ササキの視線が、シシジョウへと向いた。

「やっぱり仲間外れは俺だな。お前達、中学時代に何をやらかしたんだ?」

 シシジョウの声が、視線が、軽蔑する様な色を含んでいる様に思えて、俺は気分が悪くなった。

「知らないよ!」

 サガノが叫ぶ様に云う。それからへなへなと床に座り込み、

「知らない……」

 力無く、同じ言葉を繰り返した。

「……本当に知らないんですか」

 スドウが口を開く。思いの外冷たい声音に、俺はぎくりとした。

「……それどういう意味」

 サガノが鋭い目をスドウに向けた。

「覚えてないんですか……カトウユリの事」

 その言葉に、サガノとササキはぎくりとしている様だった。……そして、俺も。

「カトウユリ?」

 シシジョウだけが分からない。俺は出来れば、その名前は二度と聞きたくなかったし、そいつの話はしたくなかった。

「何であんたが! 今! あいつの名前を出すのよ!」

 サガノがふらつきながら立ち上がり、スドウの襟首を引っ掴んで揺さぶった。スドウは抵抗せず、がくがくと揺さぶられるまま口を噤む。

「お、落ち着けよ!」

 ササキが慌ててサガノを止める。俺はそんな気力も無く、黙って俯いていた。

「……そう云えば、二組の出席簿に名前があるな。カトウユリ。一体何があった」

 サガノはまだ興奮していたが、シシジョウの声にかササキが止めたからか、スドウから手を離して項垂れている。

 黙り込んだ俺とサガノの代わりに、ササキが困った顔でシシジョウを見た。

「死んだんだ、在学中。トラックに撥ねられて……警察は自殺を疑って色々調べてたけど、結局事故死って事になった」

「……ふうん」

 シシジョウはそれ以上問わなかったし、俺達もそれ以上云う事は無かった。否、云いたくなかった。

 スドウは何か云いたげに俺達を見ていたが、俺はその睨む様な目から逃れたくて、彼女の方を見れなかった。その視線には、恨みすら籠っている様な気がしてとても恐ろしかった。

「家庭科室行くぞ」

 シシジョウの声に、俺達は暗い雰囲気のままぞろぞろとついて行った。

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