11.三つの鍵

 キムラはずかずかと職員室内に入って行き、ミヤジマが慌ててあとを追いかけた。他の奴らも順に中に入って行く。シシジョウが俺を見たので、目線で先にどうぞと促した。シシジョウは素直に先に入る。俺も続けて入った。

 シシジョウは床に転がった黒板消しを手に取り匂いを嗅いでいる。それから指でなぞって少量取ると、指を擦り合わせって感触を確かめている様だった。

「チョークだな」

 呟いて、黒板消しを適当な机の上に置いた。

「そりゃ黒板消しなんだから、チョークだろうよ」

 隣に並んで黒板消しを見ながら云う。するとシシジョウは面倒臭そうに俺を見た。

「至る所に監視カメラと銃を仕込む奴だぞ。ただの黒板消しを仕掛けて置く意味が分からん」

 そう云いながら、シシジョウは入って来た扉を見る。一緒になって見るとテグスやら小さな器具やらがセットされていて、それが黒板消しを支えていたのだと分かった。

「確かに、わざわざこんな仕掛けをして、黒板消し一つって……違和感あるな」

 顎に手をやりながら呟く様に云った背後で、がんっ、とでかい音がした。びくっと肩を震わせ振り返ると、キムラが手近な机を蹴った音だった様だ。

「鍵どこだよ」

「こ、これじゃない? ほら、この壁」

 イトウが指差す先を見ると廊下側の壁にフレームが設置されていて、そこにフックが幾つも並んでいた。そして三つ鍵がある。

 キムラがずかずかと歩いて鍵を乱暴に引っ掴んだ。そして付いているタグを確認する。ちっと舌打ちが聞こえてきた。

「玄関の鍵じゃねえな。理科室と家庭科室、それに視聴覚室だ」

「また三手に分かれる?」

 ワダの提案に、皆が顔を見合わせる。

「それでいんじゃね? さっきと同じチームで……あー、どの教室が何階にあるんだ?」

 ササキが云う。

「理科室が一階で、家庭科室は三階、視聴覚室は二階だな」

 シシジョウが云う。

「お前、ちょっと図面見ただけで全部覚えたのか」

 小声で訊くと、ああ、と短い返事が返って来た。俺には絶対無理だな。

「丁度ばらけるんだね。じゃあさっきと同じ階で良いかな」

 サノが提案すると、ササキが少し面倒臭そうな顔をした。

「俺らばっか遠い場所じゃん」

「でも、最初三階に居たんだから、そこから考えると一階が一番遠かったんだし……」

 サトウが宥める様に云う。ササキはまだ少し不満そうだったが、そうだな、と云った。

 集合場所はまた生徒用玄関前に決まる。

「俺はここを調べておきたい」

 散会した所でシシジョウが云う。

「えー、面倒臭い。だって鍵はあったでしょ。もう良いじゃん」

 サガノががっくりと脱力しながら反論する。

 すると意外な事に、スドウが口を開いた。

「あの……私も、調べておいた方が良いと思います……机の引き出しとか、キャビネットの中とか、何かあるかもしれませんし……」

 驚いた様にササキとサガノが顔を見合わせ、それから二人して俺を見るので、俺も二人を見返す。多分、二人と同じ様な顔をしているだろう。それから三人揃ってスドウを見る。彼女は申し訳無さそうに顔を伏せていた。

「嫌ならお前らは家庭科室に行けば良い。俺は一人でも残る」

 またササキとサガノと俺で顔を見合わせる。数秒経って、諦めた様にサガノが溜息を吐き、ササキは苦笑を零した。

「仕方無いな。それじゃあちゃちゃっと調べちゃお。また遅くなってキムラに文句云われるの嫌だし」

「そうだな。そんじゃま、調べますか」

 サガノ、ササキの順。ササキはシャツの袖を巻くって気合いを入れている様だった。

 結局俺達は職員室を探してから移動する事にして、手分けして机の引き出しを漁り、棚の戸を開けて回るのだった。

「それにしてもケータイが無いのが不便だよね。あれがあれば、一々どこかに集合しなくても良いのに」

 途中、サガノが疲れた声で云うので、内心で激しく同意した。

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