10.職員室の鍵

 手分けして教室内を漁った。シシジョウに云われて机の一つ一つを確認して、ロッカーは天井部分もしっかり見た。結果、タグの付いた鍵が一つ見付かった。職員室、と書かれている。

「散々探してこれだけ?」

 サガノは不満げだ。

「でも、職員室なら少なくとも他の教室の鍵ありそうじゃね」

 ササキが云う。

「職員室なら一階だよな、多分」

 俺が云うと、見取り図を確認した事のあるシシジョウがああと頷いた。

「一応、他のドアが開かないか全部確認してから一階に行こう」

 そうシシジョウが云うと、サガノはうへえ、と云う様な顔をした。

「マジ? 幾つあると思ってんの」

 シシジョウは答えない。そのまま何も云わずに鍵を持って教室を出て行こうとするので、俺達は慌ててあとを追った。

「シシジョウ協調性無さ過ぎ。絶対友達居ないよ」

「でも面白そうな奴じゃね。俺嫌いじゃないよ、ああ云うタイプ」

 シシジョウ、俺、ササキとサガノ、スドウの順で並んで歩いていると、後ろからササキとサガノの会話が聞こえて来た。多分、俺のすぐ前を歩いているシシジョウにも聞こえているだろう。が、気にした様子も無く、ドアを一つ一つ確かめて行く。

 五人でぞろぞろ行くのも時間が勿体無い気がしたが、同じ階でもばらけるのは何だか怖い。みんなそう思っているのか、ばらける事に思い至らないのか、その事に言及する者は無かった。シシジョウはそもそも他者を信用していない様だから、ばらける事を提案しても反対しそうだな、とも思う。

 結局、開いている教室は無かったので階段を降りて行く事にする。シシジョウは階を降りる度に廊下を眺めていて、俺は他のグループが調べた階も本当は自分で調べたいんだろうな、と思った。流石に反感を買うだろう事が分かっているのか、云い出しはしなかったが。

 生徒用玄関前に着くと他のグループは既に来ており、キムラは苛々とした様子を隠そうともしていなかった。

「おせーよ。何してたんだ」

「あんたらこそ早過ぎんじゃない。ちゃんと調べたの?」

 云い返すのはサガノだ。キムラはふんと鼻を鳴らした。

「二階も一階もトイレくらいしか開くとこ無かったんだよ。お前ら、時間かかったって事はどこか開くとこあったのか」

「いやー最初の教室だけだった。でもそこで職員室の鍵見付けたぞ」

 ササキが云いながら視線をシシジョウに向ける。シシジョウは手の中の鍵を軽く掲げて皆に見える様にした。

「職員室なら、他の教室の鍵を管理しているし、玄関の鍵もありそうだね」

 ほっとした様子でアベが云う。

「そうかな。スピーカー野郎が私達をここに閉じ込めたなら、鍵なんて回収してそうだけど。少なくとも、真っ先に見付かるだろう職員室の鍵で入れる場所には置いておかないよ、私なら」

 そう云うのはナカマだった。確かに、最初に居た教室は最初に調べるのが普通だろう。そうなると、そんなすぐに見付かる場所にあった鍵にはあまり価値が無い様に思える。

「分かんないじゃん、そんなの。もしかしたら玄関の鍵、あるかもしれないじゃない」

 タジマが云う。三人が揉め出しそうではらはらしたが、ワダが間に入った。

「どっちにしろ、職員室を見れば分かるでしょ。そこにある見取り図によるとすぐそこだし、行ってみよう」

 云い合いをしそうだった三人は納得した様子で黙り、頷き合った。

 それを待っていたかの様にシシジョウは歩き出し、職員室のドアに鍵を挿し込んだ。少し抵抗がある様子だったが、鍵は無事回った様だ。がちゃり、と音がする。シシジョウが鍵を抜くか抜かないかと云う所で、キムラがシシジョウを押し退ける様にしてドアを開けた。

「とろいんだよ」

 シシジョウは特に抵抗も反論もしなかった。ただ、その目がキムラを馬鹿にする様な色をしているのを俺は見逃さなかった。

 次の瞬間、とん、と音がして白い粉が舞う。シシジョウから白い粉の発生源へと目を向けると、キムラの頭に何かが落ちて来た様だった。

「いっ……げほっ、げほっ」

 何だこれ、とキムラが不機嫌に唸る。彼はばっばっと音を立てて粉を払った。落ちて来たのは、恐らくチョークの物だろう粉がたっぷりと付いた黒板消しだった。

「馬鹿にしやがって!」

 キムラは吐き捨てると、黒板消しを蹴った。職員室に取り残された机の脚に当たって、かこんと音が鳴った。

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