2.校内放送
ぴんぽんぱんぽーん。間抜けな音がする。校内放送の合図だ。そこではたと気付く。ここは学校じゃないか。良く周囲を見ればここは普通教室の一つに見える。前後に黒板があり、後ろには上着をかけるスペース。その前に机と椅子が重ねて下げられており、窓際の隅には掃除用具入れ。廊下側には木製の箱型で蓋の無いタイプのロッカー。ついでに窓にはカーテンがかけられていた。
ざざ、ざ、とノイズがスピーカーから聞こえて来る。
「あーあー、皆さん聞こえているだろうか。一人死んでしまったのは残念だが、勝手に教室から出たんじゃあしょうがない。他の人達も、この放送が終わるまでは勝手に出てはいけないよ」
声の感じは五十、六十歳くらいに感じられた。が、古びた機械越しなのではっきりとは分からない。男だと云う事は確かだ。穏やかな声だった。
しん、と室内が静まる。
穏やかな声だからこそ、狂気を感じた。
だって、今、人が死んだんだぞ。俺達は閉じ込められているんだぞ。何故か全裸なんだぞ。
そんな状態で、穏やかに「ここを出てはいけない」と云われたら、そりゃあ恐ろしくもなると云うものである。
皆一様に感じているのだろう、見える顔はどれも怯えていた。ただ一人、俺が目覚めた時隣に居た長髪の男を除いて。
彼は険しい顔でスピーカーを睨んでた。
「なあに、云う事を聞いてくれれば君達を殺しはしない。私はただ、君達とゲームをしたいだけだ」
ゲーム? ゲームと云ったか。人が一人死んでいるのに。
「ふざけんな! キョウコを殺しておいて!」
叫んだのはキョウコの連れらしき女だった。長い髪で半分隠れた顔は般若の様だ。握り締めた拳を振り上げている。
「カミジ君の事は私も残念に思うよ。けれど不用心に教室を出た彼女も悪いと思わないかい」
会話が成立している。思わず周囲を見回した。どこかにマイクでもあるのだろうか。同じ事を思った者が何人か居た様で、俺と同じく周囲を見渡したり、怯えて縮こまる者が居た。
「さて、ゲームについて説明しよう」
男はそれ以上キョウコについて話す気は無い様で、変わらず穏やかな調子で話し出した。
キョウコの連れはまた何か云いそうだったが、いつの間にか長髪の男がその口を塞いでいた。
「不用意に騒ぐと二の舞になるぞ」
そう云われて、キョウコの連れは一先ず黙る事に決めた様だ。握り締めた拳をぶるぶるさせながらも一応は収める。目には涙が溜まっていた。
「賢い人が居るね」
スピーカーはどことなく嬉し気だ。
「ゲームの説明だったね。これは脱出ゲームだ。各部屋の鍵が色んな場所に隠されている。窓は塞いであるから開かないよ。まあ私も人間だから、どこかに穴はあるかもしれないが……」
スピーカーの話を要約するとこうだ。
ここ以外の教室や部屋はどこも鍵がかかっており、その鍵はどこかに隠されている。それらを見付けて最終的に生徒用玄関の鍵を探し当てれば俺達の勝ち。窓から出るのは反則として処分。扉や学校の備品を壊すのもルール違反で処分。スピーカーはカメラやマイクで俺達の行動を捕捉している。食料はどこかにある。俺達の服もどこかにある。水道と電気は死んでいる。質問があればその都度スピーカーを通して答える。トイレだけはカメラもマイクも無い。
大体そんな所だった。
「どうして俺達なんだ」
長髪の男が云う。
「……それは自分達で考えると良い。ただ一つ。一人、仲間外れが居るとだけ」
ぶつん、放送が切れた。
沈黙が部屋を覆う。
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