1.目が覚めると
酷く頭が重かった。顔を顰めて目元を擦りながら首を振って目を覚まそうとする。次第に意識がはっきりとしてきて、漸く自分の置かれた状況を認識した。
「……裸!?」
全裸だった。床がひんやりと冷たい。木製のタイル張りの様だった。やや埃っぽい。
途端、周囲の喧騒が耳に飛び込んで来る。
「何だこれ!」
「ここどこ?」
「やだ! 何であたし裸なの!?」
「おめー誰だよ!?」
「ちょっとこっち見ないでよ!」
「汚いモノ見せないで。やだー!」
「おめーこそ誰だよ!?」
「ちょ、汚いって酷くね」
きゃんきゃんと云い合う声にそちらを見遣る。自分と同じ年頃の男女がひのふのみ……自分を入れて十六人。その全員が全裸で、周囲に衣類は一切無く、その殆どが云い争いをするか身を庇う様にしていた。
そのどちらでもないのは少し髪の長い男で、しかし不潔感は無く髭もきちんと剃られていて、顔立ちもどちらかと云えば綺麗な方だった。案外、似合うからと云う理由で髪を伸ばしていてもおかしくないなと思う。その男は俺の近くでやや険しい表情をして胡坐をかいており、周囲を観察する様に見ていた。
俺はそんな状況に呆気に取られてぽかんとするしか無かった。
「もう嫌! 何でこんな事になってんの!? 何で服無いのよー!」
九人居る女の中で一際小柄な女が髪を掻き毟りながら叫ぶ。連れなのか、側に居る別の女が宥めるが、小柄な女は嫌々と首を左右に振った。そして不意に立ち上がると、扉に向かって駆け出した。
「キョウコ!」
それが駆け出した女の名前だろう、側に居た女が叫ぶが振り返らないし立ち止まらない。
「戻れ!」
隣から鋭い声が上がった。長髪の男だ。胡坐から立ち上がろうとしてか腰を浮かせている。しかし、女は立ち止まらず扉をスライドさせると部屋から飛び出した。途端、ぱんっと云う破裂音がして、次いでどさっと云う何か重い物が落ちる様な音がした。
「……キョウコ?」
頼りない声だった。見ると先程キョウコとやらを宥めていた女が、呆然とした顔で開いた扉の向こうを見詰めていた。女の位置からは、部屋の外が良く見えるだろう。女の目は徐々に見開かれ、そして体の横にあった腕が徐々に持ち上がりその目を覆った。
「いやああああああッ!!」
劈く様な悲鳴が上がる。キョウコ達と向かい合って云い合っていた三人の男も扉の向こうを向いており、その顔は驚愕に染まっていた。
隣の男は諦めた様に溜息を吐いて座り直す。
俺は恐ろしさを覚えながらも立ち上がり、ふらふらと扉の方へ向かった。
扉の外は廊下になっている。この場所は随分と広そうだ。廊下は左右に伸びているし幾つかの扉が見える。キョウコはどこへ行ったのだろう。
分かっている。分かりきっている。
けれど認めたくない。
恐る恐る視線を下に向ける。そこには糸が切れたマリオネットの様に不格好に横たわる全裸の女が居た。見開いた目は虚空を見詰め、その周囲には薄暗い中でも分かる赤い赤い液体が広がりつつある。
「嘘だろ……」
呆然と呟く俺の背後で、何が起きたかを知った奴らは悲鳴を上げたり悪態を吐いたりしていた。
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