昼寝をしていたら夢を見たから小説にしてみた(仮)
鴻桐葦岐
0.探偵役として
男はあるバーのカウンター席で一人酒を飲んでいた。大学を卒業して二、三年の若造に見える。そこに年嵩の男が現れ、隣へと腰を下ろした。若い男は混んでいる訳でも無いのに変な奴だな、と思いはしたものの、無視して自分のグラスを傾けた。
「ウイスキー、ロックで」
あとから来た男は言葉少なに注文すると、隣に座る男に顔を向けて何やら話しかける。話しかけられた男はあまり社交的な方ではないが、酒が回りつつある事も手伝って男の言葉に答えるだけの事はしてやった。
話によると年嵩の男は小さな工場の社長をしており、妻と娘に先立たれ、体も辛くなってきたので最近会社を人に譲って隠居生活をしているとの事だった。
若い男は年寄りの身の上話を聞かされるのかと僅かに顔を顰めたが、年嵩の男はそれ以上の身の上を語らず、若い男にゲームをしないかと持ちかけた。
「ゲーム?」
「水平思考ゲーム、と云う遊びを知っているかい」
「ああ」
若い男は頷いた。
水平思考ゲーム。ウミガメのスープと云った方が通りが良いかもしれない。出題者が出した問題に対し回答者がイエスかノーで答えられる質問をして、その答えをヒントに問題の答えを推理していくゲームだ。
有名なのは前述の「ウミガメのスープ」だ。出題内容は、「男はレストランに入り、ウミガメのスープを頼んだ。しかしウミガメのスープを一口飲んだ男はその後自殺してしまう。何故か」と云うものである。回答者はこれに対し、「男は元々死ぬつもりだったか」「そのスープは本当にウミガメのスープだったか」などの質問をする。出題者はこれにイエスかノーで答え、回答者はそれをヒントに男の自殺の理由を当てる。
年嵩の男は、隣の男が頷くのを見て口角を上げた。話が早いと。
それから一時間程水平思考ゲームが繰り広げられた。若い男は的確な質問をし、ほんの数回で真相に辿り着く。年嵩の男は酷く嬉しそうだった。
若い男も楽しくなった様で酒が進み、気が付けば強か酔っていた。その内瞼が重くなっていき――男の意識はそこで途絶えた。最後に聞こえたのは年嵩の男の声で、
「探偵役にぴったりだ」
と云うものだった。
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