乙女ゲーム

 また、ソシャゲの話である。


 学生時代、休み時間に友達と話していると、そのなかのとある女の子がそっと制服に隠すようにスマホを取り出し、ゲームを始めた。私の学校ではスマホは持ち込んだ場合預ける必要があり、もし無断で持っていることがバレたら没収されてしまう。

 彼女は友人の一人に「何のゲーム?」と訊かれ、ゲームの名前を答えた。どうやら、アイドルと疑似恋愛ができるゲームで、ストーリーを進めていくことでアイドルと仲を深めていく、というゲームらしい。

 ただし、そのゲームは一回ストーリーを進めるためのポイントが一時間に一ポイント回復し、最大五ポイントまでしかストックできない。もちろん課金することでそのポイントを購入しストーリーを進めることができるのだが、彼女は課金することなくそのゲームを進めており、そのストックがたまりきって時間を無駄にしないよう、無断でスマホを持ち込みゲームをやっていたのだ。

「5ストック、1時間回復?」

 私は彼女にそう端的に訊いてみた。彼女は少し驚いたように私の方を見て、「知ってるの?」と言った。

「いや、似たようなゲームを昔やっていたから。寝るときも一旦4時間半で起きて、進めてからもう一度寝る、とか私もやってたよ」

 私はそんな風に返した。彼女は、私の話を聞いて、「へぇ、気持ち悪いね」とだけ言い、またストーリーを進めていた。

 その現場で私と彼女以外の人間はきょとんとした顔で私達の話をただ傍観していた。彼女のゲームの仕組みを理解していたのは私だけで、私はむしろ彼女の良き理解者であるはずだ。

 それなのに、私は「気持ち悪い」と言われた。私は自分をオタクとは言い切れないが、オタクやゲームに対する偏見は撤廃されもう少し理解されるべきだと思えた瞬間だった。彼女を恨んでいるわけでも彼女を叩きたいわけでもないが、いまだあの出来事を忘れられないでいる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る