特技
私は、特技がない。だからいつも、特技などの自己紹介をしなければいけない場合、苦労するのだ。大抵の自己紹介では、趣味と特技を訊かれる。
指の関節は鳴らすことはできる。
口笛は、できる。
すべての指を第一関節のみ曲げることができる。
しかし、私はこれらを特技と呼ぶことはできない。
指の関節が鳴るのは意外と偶然の産物で、もともと手の肉が少なくて、骨が出ているせいだろう。関節を鳴らすと指が太くなるとのよくわからない噂もあるくらいだから、特に鳴らしていいことはなさそうである。
口笛は、学生時代の同級生ができるのが羨ましく、授業中に必死に練習した。その結果、できるようになった。
第一関節のみ曲げるのも、そうだ。当時仲の良かったクラスメートの特技で、それに憧れた私は必死にこれまた授業中に練習を重ね、今ではなんの支障もなく披露することができる。しかし、私の特技ではなく彼女の特技だ、と感じてしまうのだ。
耳を動かせるくらいの、特技が欲しかった。私の同級生に実際に耳を動かせる人間がいたのだが、これは動耳筋という普通の人は退化した筋肉がまだ使えることによる特技だ。もしかしたら動耳筋を鍛える方法があるのかもしれないが、生憎私はそれを知らない。
いい特技をなにか見つけられないか、と模索していた時期はあるが、結局答えは見つからなかった。特技は趣味とはまた違うし、打ち込めばいいものでもない。趣味は読書でも、読書から発展させられる特技は速読か、暗記かしかない。
暗記、暗唱という手はある。花言葉ならすべて即座に応えられるだとか、天皇は歴代すべて言える、だとか。もちろんこれは努力でどうにかなるものだが、なかなか努力が実を結ばない。…私の努力が足りない、ということなんだろうけれど。
いまだ、特技はいつもない、と答えている。特技だと言い張れるものがある人は、とても羨ましい。
しかし、決めた。二十歳の間に、なにか特技と言えるものを見つけよう。特技は努力次第ではなんとかなるのかもしれない。それを証明するために、なんていう威勢よくカッコいいものではない。特技をなにかしら見つけられたなら、私も少しは自分のことを誇りに思えるかもしれない、なんていう愚かで夢見がちな期待だ。
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