カップケーキ
小さな頃、好きなおやつがあった。それは当時、スーパーや百均で売っていて、私はよく親にねだった。コップに出来合いの粉を入れ、牛乳を注ぎ、レンジで温める。そうすると、コップのなかでケーキが膨らんでいき、美味しいモカ風味のカップケーキが完成する。ジャンクフード特有の濃いめのモカの味が、当時の私を魅了した。
十何年間食べていないから久しぶりに食べたいと思い立って調べてみると、すでに販売停止となった商品となっていた。思い返してみれば、このカップケーキの話が誰かに通じた記憶はない。もしかしたら、あの商品は、人気商品ではなかったのかもしれない。そう考えてみて、私は少しだけ共有できない淋しさに包まれる。
思い出とはいつのまにか遠いところにあるのかもしれない。私は、そう考えた。そしてスーパーに行った際に、なんでもない菓子を手に取ってみて、しばしの妄想に浸る。この菓子をたまたま取った小さな子供は、この味に感動し何度もまたあのお菓子を買って、とねだる。母親もまた今度ね、と繰り返すものの、子供の熱意に負け、たまに買ってあげる。子供は喜んで、そのお菓子をすぐに食べてしまう。そのうちに、そのお菓子が販売停止になって店頭から消えて、私のように、あのお菓子は美味しかったなぁと思い返す。
私は大人になり、駄菓子コーナーに頻繁に立ち寄ることもなくなった。たまに買うにしても、お徳用の大きなパックだとか味がいくつも楽しめるパックを、友人が家に来る時に買うくらいのものだ。小さな、百円で買えるようなものを屈んでその一つ一つを吟味して買うことなんてない。もしかすると最近では、わずかなお金を握りしめてお菓子を買いに行くなんてことはないのかもしれない。小さな子供でもスマホをもって電子マネーで買い物するのかもしれない。
私も駄菓子屋に行ったことがないのだからその光景を味気ないなどと言う資格はないかもしれないが、それでも味気ないと思ってしまうのだから仕方ない。この時代にも私のカップケーキのような記憶が、どこかの誰かに共感してもらえることを切に願う。と同時にあのカップケーキがまた復活して再販されることを切に願う。また食べたい。
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