第9戦 俺の嘘


俺は自分に嘘をついている。


俺は恋愛しないのではなく、やめたのだ。

遠く離れた東京で生活をする幼馴染。

俺はかの昔、その幼馴染に恋をした。

その恋は実ることなく散ったのだ。

俺はそこで、恋愛というものの残酷さと儚さを知った。

人が本気で好きになっても、それはいとも簡単に、たった一言で散る。

振った側も、振られた側も辛い思いをする。

そんな思いはもう二度としたくないんだ。


なら、

その好意を受け止めればいいじゃないか。

そう思うだろう。

しかし、

それがたとえ成就したとしても、いずれは目移りしたり、すれ違いで、いつか終わるもの。

そう長続きする恋愛はそんなにない。


なら、初めからしないほうが得策。


これが俺の経験が語る導き出した結論。


だから俺は恋愛をしない。



だから俺は、

桜井の好意には答えることは無い。

それは事実だ。



でも、

恋愛というものはそう簡単に俺の中から消えない。


俺の初恋は、未だに心のどこかでこびりついて取れない。


そこが恋愛の鬱陶しさでもあり、難しいところだ。


恋愛をしないという俺だが、


どこか矛盾めていて、


そしてとても苦しくて、


自分に嘘をついて誤魔化して、


そうしてきっと俺はまだ、



心のどこかで恋をしている。



そんな俺を

我ながら最低で、

未練タラタラな自分を情けないと思った。


◇◆◇◆


「おっす北山!」


「おーす!澤田」


8時27分、学校に着いた俺は隣の席の澤田に挨拶を返す。


「てか珍しいな。お前から挨拶するとか。病気か?」


「おいおいふざんなー!俺でも挨拶する日ぐらいあるだろーが!」


俺の冗談に軽く笑って返す澤田。

やはり、甘酸っぱくてぎこちない恋する男女の会話より、こうして冗談を言って笑い合う会話の方がずっと楽だ。


「てかよー北山」


「ん?なんだ」


「お前、桜井と付き合ってんの?」


「………は?」


唐突な質問に思考停止する俺。

こいつ今なんて?俺と桜井が付き合ってる?

バカバカしい。


「いやだって!最近なんかよく話してるくね?」


「いやまぁ、向こうが話しかけてくるからな」


嘘はついてない。

むしろ正しい。


「……なにもしかしてお前!アタックされてんのか!?」


澤田が嘘だろ…みたいな顔で聞いてくる。

澤田の言うことは正しいが、俺が振ったことをいえばきっと澤田はキレ散らかすと思うので、俺はとぼけることにする。


「知らね。まぁ俺みたいなやつにはアタックせんやろ」


「それもそうかー!」


あははーと微笑でやり過ごす俺。

演技は割と得意な方だからな。


「でも桜井さんやっぱ可愛いよなぁ〜!」


「まぁ外見は可愛いな」


「性格も完璧じゃねぇか!」


「分かんねぇぞ?俺らの知らない裏があるかもしれないぜ」


「うわぁー!裏で俺たちの悪口言いまくってるとか?」


「そうそう。女って怖いからな」


俺は多少の事実を混じえながら澤田と話す。

ホームルームまでのこの時間は割と嫌いじゃない。

持つべきは友だな。

すると突然、

そんな時間を邪魔する者が現れた。


「お、おはよー!澤田くん!」


突如、後ろから声がかかる。

もうわかりきっているがその人物は、

ミスコン1位の美少女こと桜井三咲。

澤田はもう頬が緩みっぱなしである。

だらしないからやめてくれ。


「お、おおおはよう!桜井さん!」


ドキマギしすぎて「お」がえらい多いぞ。

桜井はニコッと澤田に笑顔を返すと今度は俺に顔を向けてきた。

その口はムフっと緩んでおり、何をする気だこいつ。


俺のそんな嫌な予感は


見事、的中した。




「おはよう!新しいお隣さん!」




「「は?」」



意味が違うが、澤田と俺のは?が見事にハモった。



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