第6戦 お昼ご飯を共に


授業終了のチャイムが鳴った。

「んじゃあ今日はここまでだ。しっかり覚えとけよ」

そう言って先生が退場していく。

このあとは至福のひととき。

お昼休憩である。

桜井と帰った翌日、

俺はいつも通り1人で飯を食べようとしていた。

カバンからハンカチに包まれた弁当箱を取り出す。

巾着を解き、銀色のスチールの弁当箱が姿を表す。スチール製の弁当箱は、空の状態で落とすと凄まじい音がするなど、珍しい弁当箱である。俺は悪くないと思う。

特に落とした時のカラーンってする騒音とか。皮肉じゃないよ。


俺がそんな弁当箱を開封しようとした

その時だった。


「北山くん?1人なら一緒にお弁当食べな

い?」


コソッと俺だけに聞こえるように言う無法者。

俺の開封タイムを邪魔する者が現れた。

その名は桜井三咲。

この学校のアイドルにしてクラスメイト。

最近、告って振られたという話題沸騰中の美少女である。

そんな美少女が俺になんの用か。

そんなもの決まっている。


「お昼ご飯も邪魔する気かお前」


「べ、別に邪魔したつもりじゃなくって…」


クラス中に聞こえる声で言う桜井。

こいつあれか。わざと聞こえるように言って断らせない作戦か。現にクラスの大半が俺の方を訝しげに見ている。

仕方ない、付き合ってやろう。


「いいよ。俺で良ければ」


クラスのみんなは俺が振ったなど知る由もないので、上からにならないよう言葉を選んで俺は言った。

桜井はふふっと笑っているが、このまま一緒に昼飯を食うとなるとクラスの注目の的になってしまう。

ここは避難した方がいい。


「でもちょっとここだとあれだから移動しよっか?」


「うん!そうだね!」


その意図が伝わったらしく、大人しく従う桜井。

特に注目も浴びずに飯を食うとなれば…。

というか、この学校にそんなスペースは中庭程度しかない。

仕方ない、中庭で妥協するか。

俺はバレないように弁当箱を持つ。

そして、桜井の耳元で囁いた。


「いいか。先に俺が出るから時間差でその後お前も出てこい。いいな」


「う、うん。分かった」


素直に頷く桜井。

てかなんでこいつちょっと頬赤いんだよ。

そして、

俺は、そのまま何事もなかったように教室を出た。


◇◆◇◆


「おまたせ」


「大丈夫、今来たところ」


「それ使うとこ違くない?」


軽く挨拶を済ませた俺たちは中庭のベンチに座る。幸い教室からここは見えない上、今日は誰もいなかった。


「んで、一緒に昼飯食うだけかよ」


「うん。まぁそれだけでもいいんだけどねもはや」


こいつ、早くも俺を落とすの諦めてねえか?


「お前、もはや俺と近くに居られればいいとか思ってるだろ」


「お、思ってない。私はあなたの彼女になりたいのよ」


「お、おう……」


ちょっと動揺してるとことか、彼女になりたいとかド直球で言ってくるとかいろいろとツッコミどころ満載でたじろぐ俺。

しかし、

隣に座る桜井はそんなことを気にかけもせず、世間話を持ちかけてきた。


「私ね、明日引っ越すんだ」


「すげえ唐突だな。公表してないってことは転校する訳じゃないよな」


「まぁね。何?ちょっと心配したの?」


そう言ってニヤニヤする桜井。

からかってるつもりなのか。

しかし、俺には効果薄いぞ、そのからかい。

それは相手が好きな場合に発動するいじりだからな。

というわけで

逆に俺がからかってやることにした。


「おう。お前がいなきゃ生きていけないよ」


「ふえぁ!?」


顔を赤くして照れる桜井。

こいつ煽り耐性ゼロだな。

俺が仕返しだと言わんばかりにふふんと笑ってやる。

すると、

まだちょっと照れている桜井が、自分の弁当の卵焼きを箸で掴んで、俺の口に近づけてきた。


「……お前、何をする気だ?」


「み、見て分からない?あーんよ」


「……はぁ?」


そこで俺は理解する。

桜井の作戦その4。

あーん作戦である。

学校の男子共が桜井にあーんをされたのであれば、その具材を一生噛みながら生きていくことになるだろう。

しかし、俺は北山秀。

恋愛のれの字も関わらない男。

そんなもので落ちるとでも思っているのか。


「いいから早く口を開けて!」


「お前それ自分がやりたいだけだろ」


「うぐっ。そ、そんなことないわよ。作戦よ!」


図星を当てられ、動揺する桜井。

こいつ、もうやりたい放題だな。

まぁいい。付き合ってやるか。

俺は見られてないか周りをキョロキョロ確認する。

そして、

誰もいないことを確認して、


俺は卵焼きにかぶりついた。


ちょっと冷たいが、ふわふわと卵の風味が漂い、とても美味しい卵焼きだった。


「……そ、その〜…どうだった?」


上目遣いで不安気に聞く桜井。

この反応からして、こいつの手作りだと判断した俺は、正直な感想を言う。


「美味いな。お前料理得意なのな」


「えへへ、ありがとっ!ってなんで私が作ったって知ってるの!?」


緩んだ口を一瞬にして、驚きの顔に変える表情筋豊かな桜井。

この表情筋で世の…いや学校の男どもを落としているのか。


「お前の顔見てりゃ嫌でも分かるよ」


「わ、私顔に出てた!?」


「うん。ばりばり出てた」


すると、顔を隠して照れる桜井。


あーん作戦は自分がダメージを負う結果になってしまったようだった。

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