第5戦 下校
「だからちょっと待ってよ!」
俺が靴を履き替えていると、桜井が走ってきた。
「なんだよ。俺はもう帰るからほっといてくれ」
すると桜井はふふんと鼻を鳴らし、得意げに言った。
「作戦その2、一緒に下校よ!」
「……はぁ?」
本日はまだ逃がしてくれないらしい。
◆◇◆◇
学校から出た俺たちは2人並んで最寄り駅に向かっていた。
「ねぇねぇ北山くん!」
ヒロインモード全開の桜井が胸をくっつけて話しかけてくる。
正直、鬱陶しいが、相手をしてやると言った俺にも責任があるので構ってやる。
「なんだよ」
「そ、その〜……」
なんだよ煮え切らないな。
言いたいことがあるならはっきりと言って欲しいもんだ。
俯いてむずむずしている桜井が、やがて赤い顔をあげて言った。
「そ、その!……手…繋がない?」
……………なるほど。
さっきのは初心なヒロインモードですか。
てか、俺相手にそのヒロインモードもはや意味ないと思います。
てか、今こいつなんて言った?
「……ごめんもっかい」
「だから!手、繋ご?」
今度は可愛らしく首を傾げて言う桜井。
いちいち仕草や言葉が可愛らしいがそんな程度では動じない。
「いい……かな……?」
追い討ちとして、ちょっと不安気に尋ねる桜井。
俺は北山秀。恋に振り回されない男。
通常の男子高校生では桜井にこんなことを言われた暁には、家に帰った後、繋いだ手に何十回もキスをするであろう。
しかし、俺は北山秀。
桜井と手を繋ぐ事など握手するのと同様のことである。
し、しかし。しかしだな。
俺たちが手を繋いで歩いているのを他のやつに見られることがあったりすると、クソめんどくさいことになる。
でも、ここで断ると俺が桜井を意識していると思われても否定出来なくなる。
つまり、
繋ぐ以外の選択肢はないのである。
「仕方ねえな」
そう言って俺は桜井に手を差し出す。
しかし、その手を繋ごうとしない桜井。
「おい。繋がないのかよ」
「いや、実際するとなると緊張するなって思って」
なんだよこいつ!
自分からするって言って恥ずかしがってんじやねえよ!
桜井はすぅーはぁーと深呼吸をして緊張をほぐしている。
立場、逆な気がする。
「よしっ!えいっ!」
そんな声と共に俺の手をとる桜井。
桜井の手は女子有るまじき手で、柔らかく、それでいてとても小さかった。
まるで、守ってあげたくなるような。
俺は隣の桜井を見ると、頬を赤くしてちょっと照れている様子。
ちょっとからかってみよう。
「おい何照れてんだよ」
「べ、別に照れてないよ?よ、余裕だし」
案の定、全然余裕じゃない反応を見せる桜井。声が上擦ってるぞ。
「全然余裕そうには見えないが?」
「う、うるさいわね。お、男の子と手繋いだの初めてなの」
上擦った声が今度は小さくなる。
こいつ、見た目も中身も初心じゃねえか。
俺は最後に1つだけからかうことにした。
「顔、赤いぞ」
すると、顔を真っ赤にして俯いて桜井は言った。
「……仕方ないじゃん。好きな人と手を繋いで帰ってるんだから…」
「お、おう……」
今までよりさらに初心な反応を見せる桜井。
俺は思わず顔を赤くしてしまった。
そして、
柄にもなく
少し可愛いなとも、思ってしまった。
その俺の様子に気づいた桜井が頬を赤くしたまま言ってきた。
「あー!今のアウトでしょ!」
「何がアウトだよ。至って普通だろ」
「顔赤くしたまま言っても説得力ありませーん!」
「暑いんだよ」
「まだ4月ですけど。可愛いなとか思ったんでしょ!恥ずかしがらずに言いなさいよ!」
それを聞いた気づき、俺は思った。
こいつはバカだと。
でも、
面白いから続けよう。
「お前、ほんとに可愛いって言ってもいいのかよ」
するとほんのり赤かった桜井の頬は、ポっと一瞬にして真っ赤に染まった。
ほれみろこいつはバカだ。
「……やっぱだめ」
「可愛いぞ。桜井」
「──っ!」
全力で顔を背ける桜井。
俺はトドメを指すことにした。
「可愛いぞ。三咲」
その瞬間、桜井は手を離してダッシュで帰って行った。
今回も俺の勝ち!
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