第4戦 作戦実行


命からがら逃げ切った俺は部室に戻る途中である。

文系の俺がこんなに走ったのは久しぶりだ。

何とか近くの掃除道具箱に身を潜めて、命の危機を脱したがあんなにキレるとは思わなかった。

このまま帰っても良かったが、一応部長として残ることにした。

戻って、また追いかけられたら帰ろうと思う。


俺は警戒しながら部室の扉を開ける。


そこには、


「先輩おかえりなさい!さっきは追いかけてすいません!」


「ちょっと感情のままに動きすぎました」


「部長さん!とりあえず座ってください!」


ニコニコ笑顔の部員たち。

いや、怖い。怖すぎる。

恐る恐る桜井を見ると、ヒロインモードの清楚な桜井。

何を考えているのか読み取れない。

怖い!何を企んでやがる!

俺は言われるがままに椅子に座る。

椅子に特に仕掛けは無さそうだ。

ニコニコ笑顔の桜井が口を開く。


「北山くん、おかえり!」


「お、おう。まだいたのか」


「当たり前でしょ。そ、その…まだ北山くんと一緒にいたかったから…」


自分で言って顔を赤くして照れる桜井。

それを部員たちが愛でるように見ている。


なるほど、

これは桜井が糸を引いてるやつだな。


考えられる作戦として、桜井がこいつらを利用して俺を落とそうとしてくる作戦か。

それをやられると割と厄介たぞ。

ここは俺の聖域。

こいつらが桜井の味方となると苦戦を強いられるであろう。

そうなると、俺が落ちるのも時間の問題。

この部活をやめることにならざるを得ない。

俺は意地でも恋愛をしたくない。

いや、してはいけないんだ。


部員がいっせいに立ち上がる。

作戦実行らしい。


「あ、すいません!俺今日塾でした!」


お前塾行ってないだろ。


「部長、さっきから腹痛いんでトイレ行ってきます」


さっきまで走り回ってただろ。


「先輩!帰ります!」


理由もクソもねえな。


そして、扉に向かって行く。


「「「じゃあ、お疲れ様です!」」」


そう言って出ていった。



「……………」



「……………」



黙り込む俺たち。


バレバレなんだよ馬鹿野郎。

桜井も渋い表情をしている。

2人きりにしてアタックする作戦立てたはいいけどバレバレなんだよぉ!

って顔してる。


そして一言。


「ふ、2人きりね」


「方法雑すぎんだろ」


すると桜井はヒロインモードを解除した。


「だって仕方ないじゃない!あいつら演技下手すぎでしょ!誰がいっせいに出てけって言ったのよ!」


「そうゆうやつらなんだよ」


「にしてももっとやりようがあるでしょ…」


はぁーとため息をつく桜井。

さっきの清楚系ヒロインはどこへいったのか。


「んで、お前は2人きりにしてどうしたいんだよ」


「決まってるじゃない。あなたに好きになってもらうのよ」


そう言って俺の隣に座ってきた。

積極的だなこの美少女。

普通なら美少女が隣に座ってきたら、もう舞い上がってあたふたとするところだが、残念俺は恋愛に無縁な男。

そんなのでは落とせない。


「まぁこんなもんじゃおどおどしないわよね」


「当たり前だろ。舐めてんのか?」


「ふふっ、ここからよ」


すると桜井は、座ったまま俺の腕を取って絡ませた。二の腕にふくよかな胸を押し当てる。

なるほど、ボディタッチ作戦か。

本来であれば、こんなことをされた男共は絡ませられた腕を一生洗わず、大切な思い出と化すだろう。

しかし、恋愛無関心の俺には効果は薄い。

良くて俺の今日のおかずになるくらいか。

ならないけどな。


「ねぇ…こっち見て?」


上目遣いで見上げる桜井。

その瞳は潤んでおり、何かに期待しているような表情。

こんなもんくらったら、もう男子はイチコロだろう。

が、

俺は北山秀。

女の子の好意に向き合わない者。

可愛いとは思うが、そこまでだ。


しかし、このままでは埒が明かない。

こちらも何かしなければ。

このまま振りほどいて逃げるのもありだが、それをすると照れ隠しだと勘違いされる可能性が高い。

となれば、反撃。

すなわち、あえてこちらからアタックする。

こいつの恋心を利用するのだ。

俺は言う。


「ダメだ桜井。もう、我慢出来ない」


「え?」


俺は、4つ並んだ椅子に桜井を押し倒す。

椅子に寝ている桜井に俺がのしかかる。


「だ、ダメ……」


赤い顔で桜井が言うが、抵抗もしなければ、その目は期待に満ちている。

俺はそのまま桜井の顔に顔を近づけていく。

そして、

あと十数センチのところで俺は言う。



「お前が悪いんだからな」



それを聞いた桜井は顔を背けて言う。



「優しく…してね?」



俺は顔をさらに近づけていく。

桜井はそれを見て、目をつぶった。

お互いの吐息が顔にかかるくらい。

あと5センチ…3センチ…。

そして、

お互いの唇が触れそうになった

その時、




俺はデコピンを食らわせた。



「いてっ!」



「ふははは!!俺がそんなにチョロいわけがないだろうが!何を期待してたのかな桜井三咲さん!?」



俺は起き上がり、嘲笑的に言う。

キョトンとしていた桜井は、罠だと気づいたようで、怒りで顔を真っ赤にして言い返す。



「あ、あんたそれはセコいわよ!私がどれだけ覚悟決めたかと思ってんのよ!」


「なんの覚悟ですか?あなたの口から聞きたいなぁ!何を優しくするんですか?」


すると、

今度は羞恥で顔を赤らめて、蚊の鳴くような声で言った。


「そ、そうゆうことに決まってんじゃん。ばか」



予想外の反応に、俺はたじろぐ。

しかし、それよりもまずい反応が俺の中で起きている。

気づかれたらまずい。



「お、おう。んじゃ帰るわ」



「あ、ちょっと待って!」



俺は桜井を置いて部室を出る。

今、こいつに顔を見られたらまずい。

俺は桜井に聞こえないよう呟く。



「最後のが1番ダメージでかいわ馬鹿野郎」



多分俺、今顔赤いからな。

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