第115話 E パンツ
なぜ、パンツを頭に被っているのか。
そう叫んだ、黒に対して。
「さっき説明しようとしたのを、君が遮ったんじゃないか」
やれやれ、とばかりに光は肩をすくめた。
頭にパンツを被った状態で。
「環の編んでくれた解呪の術式を応用して、術式転写で加護を付与したんだ。これは『聖炎』に対する、即席の防護魔具ってところかな」
これ、と光は己の頭部……そこに装着されたパンツを指でトントンと叩く。
「皆が時間を稼いでくれたおかげで、完成させることが出来た。ありがとう……心からの感謝を」
そう言って微笑む、パンツを被った光。
「なんかえぇ感じの微笑み浮かべとるが、もしや今のは見せ場的なシーンじゃったのか……!? 妾、パンツに気を取られて一個も話が頭に入ってこんのじゃが……!?」
「安心なさい、わたくしとておパンツに気を取られて他のことが一切考えられません……!」
「こらこら二人共、女の子があんまり何度もパン……とか、ハッキリ言うものじゃないぞ?」
「パンツ被っとる女にだけは言われたくないセリフ百年連続ナンバーワンじゃよなぁ!?」
「せめて、ショーツって言うとか……」
「そういう次元ではないということがなぜ理解出来ませんの!? というか防護魔具を作るにせよ、おパンツを選んだ理由が説明されておりませんこと!?」
「し、仕方ないんだ! 他に頭部を覆えるものがなかったんだから! ある程度身につけて私の魔力が馴染んでいるものじゃないと、上手く魔具として機能しないし……!」
「えっ……? ということは……? まさかとは思いますが、光さん……それ、ご自分で履いてらしたのを……?」
「……他になかったから」
どこか気まずげに視線を逸らす光に向けられる環と黒の目には、「マジかコイツ……」以外の感情が一切宿っていなかった。
「よりにもよって浴衣の時にそれを選択するとか、お主クレイジーか!? クレイジーじゃったわ!」
「友が私のために戦ってくれているんだ……羞恥くらい投げ捨てずにどうする!」
「トレードオフ出来ておりませんこと!?」
フッ……とニヒルに笑う光だが、その頭部にはパンツが装着されている。
「というか身に着けているものを使うにしても、浴衣の帯を使うとかもっと色々ございましたでしょう!?」
「だ、だって帯を使っちゃったら、浴衣がはだけて下着が見えちゃうかもしれないし……」
「結局見えとる上に、考えうる限り最悪の見え方なんじゃよなぁ!?」
「なら、せめて……せめて! ブラになさいな! なぜよりにもよって、下を選んだんですのよ!?」
「浴衣でノーブラは、なんか恥ずかしいかなって……」
「おっと、さてはコヤツ羞恥心の基準がバグっておるな!?」
「というか、完全に脳がバグってましてよ!」
「ちょ、ちょっと待ってほしい! 少し誤解があるみたいだ!」
矢継ぎ早に叫ぶ二人に対して、光は片手を突き出し待ったをかけた。
「ショーツは……」
そこで一呼吸置き。
「布だ」
キリッとした表情でそう口にする。
「じゃから何!? 以外にどう反応せよと!?」
「そこには何の誤解も生じておりませんわよ! あと、なぜか決め顔なのが絶妙に苛立ちますわね!」
「い、いや、だから、ショーツとは所詮は布! ショーツを見られるのが恥ずかしいっていうのはショーツ越しにお股の辺りを見られるのが恥ずかしいということであり、ショーツそのものを見られても恥ずかしくはないはずだ!」
「それはパンツを単体で見られた者だけがギリ言って良い理論なんじゃよなぁ……!」
「お股を見られたところで恥ずかしいだけですが、頭に被っているところを見られるのは人として終了でしてよ!?」
どうやら、光と二人の間には相当な温度差があるようである。
「ちゅーかお主、その状態で! なぜ、鳥居の上なぞっちゅーデンジャラスゾーンを登場場所に選んだんじゃ!?」
「や、こういう登場シーンは高いところに降り立つのがお約束かなって」
「おパンツを頭に被っている時点で全てのお約束は適用範囲外でしてよ!」
「わ、わかったわかった、今降りるから……」
「ちょっ、まさか跳び下りる気ですの!?」
「大丈夫だ、私なら
「えぇからその、柱のとこを伝ってゆっくり降りて来るが良いぞ? の? の?」
「えぇ……? それはなんか、格好悪いような……」
「貴女、もしかしてご自分を客観視するという機能を有しておりませんの!? 貴女の格好良さのステータスなんて、おパンツを頭に装備した時点でマイナスに振り切ってますことよ!?」
といったやりとりから、菜々水に背中を踏まれた状態ながら大体の状況を把握し。
「……流石だな、光」
庸一は、心からの称賛を送る。
「場のシリアスを全て吹き飛ばし、一気にボケ時空に引き込む……きっと、世界で光にしか出来ない芸当だよ」
「念のため聞くけど、それ褒めてくれてるってことでいいんだよね!?」
「もちろんだとも」
なお、現状においてシリアスを全て吹き飛ばして一気にボケ時空に引き込む必要性があったのかは不明である。
一方で。
「……………………ん、ふっ」
先程からずっとフリーズしていた菜々水が、ここにきてようやく再起動。
「んふふふぅぅぅぅ……」
ぎこちなく笑い始めた。
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