第97話 かつての魔王軍幹部
「魔王様はあんなこと言わない!」
解釈違いなんですが、と叫んだのに続けてフィフルはそうシャウトする。
「魔王様はあんな風に笑ったりしない!」
その様は、駄々っ子のようだった。
「魔王様は……魔王様は……! 尊大で! 最強で! 災害で! 目についたものを理由もなく破壊するような理不尽な存在なんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!」
というか、実際に寝転がってジタバタと手足をめちゃくちゃに動かし始める。
「敵とはいえ、哀れな姿……光さんのようで見ていられませんわね」
「私はあんなことしないんだが!?」
「うん、まぁ……うん……」
確かにここまでではなかったものの、海に行くことを決めるくだりで似たような光景は見た気がするなと思った庸一である。
「……ところで、さっきまでシリアスな雰囲気だったから聞きづらかったんだけど」
「言うほどシリアスでしたかしら……?」
表情を改める光に、頬に手を当て首を捻る環。
「その……あの人、誰だっけ? なんか見たことあるような気はするんだけど、こう、喉元辺りで引っかかてる感じで気持ち悪くて……」
「ボクをイジるネタはもういいよ!」
ツッコミを入れながら、フィフルがガバッと起き上がった。
光は小声で環に尋ねたのだが、どうやら聞こえていたらしい。
「フィフル・サシナって名前だったってよ。魔王軍幹部の一人で、魔術師団の団長の」
「………………あー」
「だからなんでお前ら、揃って『そういえばいたなぁ』みたいな反応なの!?」
これまたコソッと庸一が光に耳打ちしたところ、やっぱり聞こえていたらしくフィフルは光の反応に憤る。
「申し訳ない、人の顔を覚えるのって苦手で……」
「勇者と魔王軍幹部ってそういうんじゃなくないかなぁ!? 顔を合わせたの、一回二回ってレベルじゃないでしょ!? まして、殺し合った仲なんだよ!?」
「あっ、そうだ。ここはちょっと暗いから、顔がよく見えなくて……」
「明らかに今考えた言い訳! ていうか、せめて『あっ、そうだ』は脳内に留めておいてくれない!?」
「まぁまぁ……ほら、アレだよ。俺たち、もうこっちの世界での人生も長いだろ? 前世の記憶は、どうしても風化していってしまうところはあると思うんだ」
「ぐむぅ……それは確かにそうかもだけど……」
庸一のフォローに、フィフルもようやく少し落ち着いてきたようだ。
「って、それより魔王様のことだよ!」
ここにきて、当初の想いを思い出したらしい。
「さっき魔王様と話してたお前……さては、お前が魔王様に何かしたんだね!? 貴様……!」
「お待ちなさい」
庸一へと伸ばされた手を、横合いから環がガッと掴んだ。
「兄様に危害を加えることは、このわたくしが許しませんわよ?」
「ぐっ……!」
強い瞳で睨まれ、フィフルは怯んだ様子を見せる。
「二度目と五度目と……それと、魔王城での貴女との最後の戦いでわたくしが使った魔法を覚えていまして? 今、この至近距離でやってみるとどうなるのでしょうねぇ……? 魔族の強靭な身体ならまだしも、今の貴女のただの人間でしょう? うふふっ、俄然興味が湧いてきましたわね」
「ぐむぅ……!」
クスクスと嗜虐的に笑う環に、フィフルの頬を冷や汗が流れた。
次いで、ハッと何かに気付いたような表情となる。
「ていうか、ボクのことめちゃくちゃ覚えてるじゃないか! なんでさっきは知らないフリをしたの!?」
「その方が面白そうかな、と思いまして」
「クソがぁ! 何が勇者一行だ、揃いも揃って馬鹿にして!」
「ちょ、ちょっと待ってくれ、私まで一緒くたにしないんで欲しいんだが!? 私は、本当に忘れていただけなんだ!」
「それはそれで酷いんだよ!」
「そう言われては反論出来ない……!」
「ていうかお前ら、正気!? 魔王様が復活するかどうかの瀬戸際って時に、なに面白さ優先してるんだよ! それとも、こうなることがわかってて最初からボクのことを嘲笑ってたっていうの!? クソ勇者一行が!」
「とりあえず、勇者一行って言うのやめてもらえないかな!? 私が主犯みたいに聞こえちゃうから!」
フィフルも光も、共に若干涙目である。
「あー……それについてはだな」
場を収める意味も含めて、庸一が口を挟むことにした。
「流石にさっきの流れまでは予想出来なかったけど、実際のとこ俺たちの中での魔王……黒の中にいる存在への脅威度がちょっと落ちてるのは否めないと思う」
流石の環も、一回目の魔王復活の時は即座に完全シリアスへと移行したものである。
「なんでよ!? 魔王様の人格を封じたのだって、どうせ不意打ちとかで正面から打ち勝ったわけじゃないんでしょ!?」
「うーん、不意打ちっつーか……」
一瞬、どう説明しようか迷った末。
「ボケたんだ」
結局、庸一は真実のままを一言で説明する。
「……? ? ? ……? ………………なんて!?」
しばらく「ん?」という顔で庸一の言葉を噛み砕こうとしていたようだが、結局理解出来なかったらしくフィフルはそう叫ぶのだった。
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