第51話 再会への感謝

「なぁ環、お前ってあんまり写真好きじゃなかったりした?」


「? いえ、別にそんなことはありませんけれど」


 アルバムから目を離しながら尋ねると、環は不思議そうに首を捻る。


「逆に、写真の方がわたくしを嫌っている可能性はありますが。ここに収められている写真の数倍は、ピンボケ写真がありますので」


「写真写り下手かよ」


 久々のこのくだりであった。


 だが、庸一としてはそんなことを聞きたかったわけではなく。


「じゃあ、笑ってる写真がほとんどないのはブレちゃった結果なのか?」


 その点が、気になったのだ。


「あぁ、いえ」


 納得の表情で、環は小さく首を横に振る。


「わたくし……昔から、あまり笑わない子供だったんですの」


「……そうなのか?」


 意外に思って、庸一は片眉を上げた。


 前世では、幼い頃から大人びてはいたものの年相応に笑う子だったと記憶している。


「ずっと、兄様がいらっしゃいませんでしたから」


 環は、懐かしさと切なさが混ざったような微笑みを浮かべる。


「でも、その記憶もなかったんだろ?」


「えぇ。ですので、何かが『足りない』という漠然とした感覚だけがありました。それは、どうしようもない喪失感で……」


「環……」


 正直なところ。

 庸一とて、環と再会するまでずっと寂寥感を抱いてはいたのだ。


 己の『使命』を探していたのだって、それを誤魔化すためという部分もあったことを否定は出来ない。

 黒・光との出会いがあったことでいつか妹とも再会出来ると信じてはいたが、実際に再会出来た時には大きな喜びと安堵感に包まれたものだ。


 とはいえそれを直接伝えると前世ぶりに会う妹が暴走することは目に見えていたので、表面上はサラッと流していた形である。

 結局伝えなかった上でだいぶ暴走したわけなので、その判断は間違っていなかったと言えよう。


 けれど、だいぶ落ち着いた今ならば改めて伝えても良いのかもしれない。


 そう考えて、口を開きかけた庸一であったが。


「わかるー!」


 それより先に、光が話に食いついた。


「私も、自分を突き動かす謎の衝動にずっと悩まされていたんだよなー」


 うんうん、と大きく頷いている。


「魔王と現世で再会していなければ、今頃どうなっていたか……」


「それは、わたくしもですわね……兄様と再会していなければ、わたくしは今でもほとんど笑うことなどなかったのだろうと思います」


 環と二人で、どこかしみじみとした表情を浮かべていた。


「兄様……またわたくしと出会ってくださって、ありがとうございます」


 環はそれを微笑みに変えて、庸一へと向ける。


「こちらこそ、だ。まぁ、俺の場合は記憶の問題はなかったけど……」


 庸一も微笑みを返しながら、そこで一旦間を空けた。


 少しだけ、言おうかどうか迷って。


「だからこそお前にまた会いたいと思ってたし、また会えて良かった」


 そう、口にする。


「生まれ変わっても出会ってくれてありがとう、環」


「兄様……!」


 微笑みを深めると、環は感極まったように口元に手を当てた。


「そういう意味では、私は魔王に感謝しなければならないんだろうな。恐らく君でなければ、私の記憶を呼び覚ますことはなかったろうから。実際、庸一との再会では記憶を取り戻すまでには至らなかったし……たぶん、環でも無理だったろうと思う。前世での宿敵だからこそ、というのは何とも皮肉に感じるけれど」


 光が、微苦笑を黒へと向ける。


「だから、まぁ、その……私も。出会ってくれてありがとう、と君に言おう」


 それから、照れくさそうに頬を掻きながらそう言った。


「お、おぅ……なんじゃろうな、この絶妙に反応に困る感じ……これ、なんて返すのが正解なんじゃ……? えぇ話じゃな、とか言うておけば良いのか……?」


 という、黒の半笑いはさておき。


 ここで終わっていれば、比較的綺麗な魂ノ井家訪問で終われたのだろうが──



   ◆   ◆   ◆



 数時間後。


「それでは、これより始まる料理対決! 取り仕切りは、不肖ながらこの自分が務めさせていただきやす!」


 魂ノ井家の広い庭には、強面に一ミリたりとも似合っていないピンクのフリル付きエプロンを身に着けた若頭の姿が。


「まずは、本日の主役たちの紹介だぁ!」


 と、大きな手振りでギャラリー──周囲は、強面大集合状態である──に指し示す。


「一番、魂ノ井環!」


「とーぜん、兄様の胃袋を掴むのはこのわたくしですわ!」


 こちらもピンク色のフリル付きエプロンを身に着けた環が、気合い充分といった表情でガッツポーズを取った。


「二番、天ケ谷光!」


「私だって料理くらい出来るというところを見せてやるさ!」


 やはりフリル付きだがこちらは青いエプロンで、光。


「三番、暗養寺黒!」


「ま、何せよ妾が一番であることを証明してみせようぞ」


 一人シンプルな闇色のエプロンを装着した黒は、小さくを肩をすくめる。


「続いて審査員、平野庸一!」


「まぁ、はい、公平な審査を心がけます」


 若頭に手の平を向けられ、半笑い気味に庸一は軽く頭を下げた。


「うぉぉぉぉぉぉぉぉ! お嬢、頑張れぇ!」


「俺ぁ、あのちっこい嬢ちゃんが実はやり手だと見てるぜ!」


「不器用そうな嬢ちゃん! 大穴狙いでアンタに賭けたんだから勝ってくれよ!」


「つぅかお嬢の彼氏、なに堂々と三股してやがんだオラァ!」


 と、強面一色のギャラリーから歓声と一部怒声が上がる。




 果たして、どうしてこんなことになったのか。


 話は、少し遡る。









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