第32話 以心伝心?
本日、庸一たち四人は放課後の教室に残って勉強会を実施していた。
「ヨーイチよ」
「あいよ」
「うむ」
黒が手を差し出すと、庸一がその手の上にシャーペンの芯を一本乗せる。
それを受け取り、黒は満足げに頷いてシャーペンに芯を補充した。
そのまま、無言で勉強することしばし。
「黒、悪いんだけど……」
「構わん、好きに使うが良い」
「サンキュー」
今度は庸一に呼びかけられた黒が消しゴムを放り、それをパシッと庸一が受け取る。
「ぐぎぎぎ……! 魔王の兄様との絆アピール、滅茶苦茶イラッとしますわね……!」
「別段、アピールしているわけじゃないとは思うけど……まぁ、この通じ合っている感は羨ましいところではあるな……」
そんな庸一と黒のやり取りを見て、環が血涙を流さんばかりに歯を食いしばり、光も苦笑気味ながら羨ましげな表情を浮かべていた。
「けれど! 兄様との絆の深さでわたくしが遅れを取るわけがありませんわ!」
かと思えば一転、環がキッと凛々しい好戦的な目付きとなる。
「環、なんだよ急に叫んで……」
そんな環に、庸一が訝しげな目を向けた。
「兄様、わたくしの目をご覧になってくださいな!」
「……?」
引き続き疑問符を浮かべながらも、庸一はジッと環の目を見つめる。
そのまま、見つめ合うこと約一秒。
「ははっ。おいおい環、それじゃあ冷凍マグロじゃなくってメカジキだろ」
「うふふっ、わたくしとしたことがうっかり致しましたわ」
どちらからともなく相好を崩し、二人はそんなことを言いながら笑い合った。
「す、凄いな……何が伝わったのかは全くわからないけど、何かが伝わったことだけはわかったぞ……何が伝わったのかは本当にわからないけど……」
「冷凍マグロとメカジキを取り違えるってどんな場面じゃい……」
光が感心の表情を浮かべ、黒が胡乱げな顔つきとなる。
「わ、私にも出来るかな……? 一応一年の付き合いにはなるわけだし、ワンチャンあると思うんだけど……」
「ちゅーかお主ら、何をやっとるんじゃ……?」
期待半分不安半分といった光の顔に、黒の疑問の視線が刺さった。
「庸一、庸一」
「うん……?」
名前を呼ばれて、庸一が今度は光の方へと顔を向ける。
「………………」
「……?」
むんっと気合いの入った表情で庸一をジッと見つめる光に、疑問混じりの視線を返す庸一。
「光……」
少しの間そうしていた後、庸一は苦笑気味に笑った。
「トイレに行きたいんだったら、我慢せずに行ってこいよ?」
「別にそんなことを考えていたわけじゃないんだが!?」
何やら間違って伝わったらしい情報に、光が吠える。
「も、もう一回! もう一回やろう庸一!」
「ていうかこれは、何をやってるんだ……?」
黒と同じく、庸一も状況がよくわかっていないらしい。
さもありなん、といったところであろう。
「いいか? 私の目を、よーく見てくれ」
「いいけどさ……」
それでも言う通りにはする辺り、庸一も付き合いの良い方であると言えよう。
「………………」
「………………」
そのまま、見つめ合うことしばし。
「………………」
「………………」
もうしばし。
「……っ」
「………………」
徐々に、光の頬が赤くなり始めてきた。
「……ちょ、ちょっと待って! やっぱり、あんまり見つめないで欲しい! なんだか恥ずかしいから!」
そして、光がサッと顔を逸らす。
「あっ、うん、悪い……ははっ、そう言われるとなんだかこっちまで照れてくるな……」
庸一も、少し赤くなった自らの頬をどこか気まずげに指で掻いていた。
そのまま二人、気恥ずかしげに笑い合う。
「はーい、雰囲気作るの禁止ですわよ!」
と、そこに環が割り込んだ。
「そして光さんは、二回失敗したのでもう失格です!」
「そんなルールいつの間に出来たんだ!? ま、まぁ、もういいけどさ……」
「更に失格ペナルティとして、本日はこれ以降兄様との接触を一切禁じます」
「ペナルティが重すぎる!?」
「アイコンタクトにかこつけて兄様を誘惑するような浅ましい女には相応しい処置でしょう」
「別にそんな意図でやってたわけじゃないし! ま、まぁ、誘惑出来ていたとしたら……その……ちょっと、嬉しかったりはするけど……」
「兄様との接触禁止期間を一週間に延期します」
「なぜ伸びた!? というか、そもそも君にそんな権限ないだろう!」
「兄様の妹なのですから、その程度の権限は有していて当然でしょう」
「そんなシステム存在しない! 大体、君はもう庸一の妹でもないじゃないか!」
「まっ、光さんったら……もうわたくしは兄様の妹ではないのだから兄様に相応しいのはわたくしだ、なんて……そんな露骨なおべっかを使っても、ペナルティは接触禁止二日間にまでしか縮まりませんわよ?」
「君の脳内補完機能どうなっているんだ!? あと、色々と判定がガバガバすぎる!」
なんて、環と光がギャーギャーと言い合う傍ら。
庸一は、隣の黒に『さっきの、アイコンタクトだったんだな……』という意思を込めた視線を送った。
すると返ってきたのは呆れ気味の視線で、恐らく『じゃな。勉強会中じゃっちゅーのに何やっとるんじゃか』と思っているのであろうことが察せられる。
このメンツの中では現世での付き合いが一番長いだけあって、自然に通じ合っている二人なのであった。
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