第27話 彼のいる放課後
「はいはいはいっ! 兄様の隣はわたくしっ! 構いませんわねっ?」
ファーストフード店にて、器用に片手でトレイを持った環がもう片方の手を上げ全力で自己主張しながら庸一の隣に向かう。
「やかましいのぅ……好きにすればよかろうが。どうせ、その程度のことでいちいちこだわるのはお主くらいのもんじゃ」
若干顔を顰めながら、黒が庸一の向かいに着席。
「あっ……わ、私も庸一の隣が……んっ、いや、なんでもない……」
手を上げかけてすぐに引っ込め、光が若干シュンとなりながら四人掛け最後の一席に座った。
「……お主ら、足して二で割ったら丁度えぇ感じになるんじゃないかえ?」
「光さんと足して二で割られるなんて、まっぴらごめんですわ」
「どういう意味だ!?」
「わたくしと光さんは、それぞれ力が特化しているからこそパーティーが成り立っていたのです。そこを平均化などされた日には、どちらも使い物にならなくなるだけですわ」
「思ったよりまともな理由だった……」
「お、おぅ……お主らの中では、それが『まともな理由』に分類されるんかい……」
したり顔で語る環に、意外そうな表情を浮かべる光。
そんな二人に対して、黒はなんとも微妙な顔となっていた。
「ははっ。でも光は魔法もかなりイケたし、環も物理だってそこそこだったからさ。足して二で割っても普通の冒険者よりは断然強いよな」
「お主のリアクションも、それでえぇのか……?」
ナゲットを摘みながらの庸一の発言で、表情の微妙さが更に増す。
「……ん?」
と、そこでふと庸一は光の方に目を向けた。
「光、どうかしたか?」
光が、ジッと庸一の方を見ていることに気付いたためである。
「っ……! 光さん、さては貴女……!」
次いで、環がハッとした表情に。
「兄様のシェイクを狙っていますのね!? 間接キス目当てで! まぁ、なんと卑しい女でしょう!」
「そ、そんなこと考えてない! 大体、間接キスって言ったって庸一はまだ口を付けていないじゃないか!」
「ほら、事細かに観察しているではありませんの!」
「ぐっ……! い、いや、そうじゃなくて、庸一のナゲットのソース、新しいやつだろう? 試してみたいなーって思っていたんだよ」
「つまり、間接ナゲットする気ですのね!? まぁ、なんと卑しい女でしょう!」
「間接ナゲットって何!?」
「時に兄様、兄様のシェイクを一口いただけませんこと? あっ、兄様が飲んでからで構いませんので。むしろ、兄様が飲んだ後の方が良いので」
「卑しい女じゃのぅ……」
「つーか、環も俺と同じ味のシェイク注文してんじゃん……」
「くっ……! なんという判断ミス……! この環、一生の不覚ですわ……!」
「お主の一生の不覚、ハードル低すぎじゃないかえ……?」
悔しげに拳を握る環に、黒が半笑いを浮かべた。
「って、魔王……!」
一方の環は、黒の方を見てワナワナと身体を震わせ始める。
「貴女、なにをしれっと間接ナゲットしていますの!?」
黒が、己のナゲットを庸一の手元にあるソースに付けているのを目にしたためだろう。
「間接ナゲットなる言葉を定着させようとするでないわ……ちゅーか、普通じゃろこれくらいのシェアは」
環の言葉など意に介さず、黒はパクッとナゲットを口に入れた。
「ふむ、まぁまぁじゃの」
そして、マイペースに咀嚼する。
「あっあっ、じゃあ私もいいかな庸一……?」
「あぁ、もちろん」
おずおずと手を上げる光の方に、庸一はソースを少し移動させた。
「えへへ、ありがとう」
「光さん、やはり卑しい女……!」
「なぜ私だけ卑しい判定されるんだ!?」
「笑い方がなんだか卑しいので」
「酷い言い草だな!?」
光は酷く不本意そうだが、えへえへと妙に卑屈な感じで笑っていた様は確かにちょっと卑しい印象だったかもしれないなと庸一も思った。
前世の凛々しかった佇まいからは考えられない姿であると言えよう。
「くっ……!」
やはり悔しげに拳を握り、環は自分のトレイに目を向けた。
そこには、シェイクとアップルパイが載っているのみである。
「こんな時にナゲットを頼んでいないとは……! この環、一生の不覚ですわ……!」
「一生の不覚、猛スピードで更新されたのぅ……ちゅーか、そんなにナゲットが欲しいなら妾の分を一個やるからそう騒ぐでないわ」
「……魔王、何を企んでいますの?」
「お主、妾を何じゃと思うておるんじゃ……?」
「くっ……! しかし、ここはどのような罠が待ち構えていようと飛び込むしかありませんわね……! たとえ一生魔王の奴隷と成り果てようとも、必ずや兄様と間接ナゲットしてみせますわ……!」
「お主、妾を何じゃと思うておるんじゃ!? ちゅーか、たかがナゲット一個に重いもん賭けすぎじゃろ! ほんで、じゃから間接ナゲットっちゅー言葉を定着させようとするでないわ! 凄いなお主、今の発言一から十までツッコミどころしかなかったぞ!?」
「いざとなれば、光さんを売り渡すことも厭いませんわ!」
「そこは厭うて!? ていうか、勝手に邪悪な取り引きに巻き込むのはやめてくれないか!」
「邪悪な取り引き言うでないわ! 邪悪なのは魂ノ井だけで、妾はナゲットを一個提供しようと言うただけじゃろうが!」
なんて、ギャーギャー言い合う三人を眺めながら。
(女三人寄れば……っつーけど、コイツらが集まると毎度マジで騒がしいよなぁ……)
庸一は、苦笑を浮かべる。
が、しかし。
実のところその騒ぎのほとんどは庸一に端を発しているのであり、自分がいない時の三人は比較的穏当に過ごしていることを知らないのであった。
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