第6話 環の宣言
「いいなー、モーニングコール。私も庸一に頼んだらやってくれるかなー」
光の羨ましそうな声が発せられると同時、ビキリと環のこめかみに血管が浮かんだ。
「光さん? あの二人の付き合いは、長いのですか?」
「うん? 中学以来? とか言ってたかな? いや、小学生だったっけ……?」
庸一たちの方を見たまま答える光は、環の様子に気付いていないようだ。
「昔から、あのような感じなので?」
「んー? 少なくとも、私が会った時にはもうあんな感じだったかなー」
「ちなみに、光さんは兄様といつ頃出会ったんですの?」
「高一の春……少なくとも、庸一はそう思ってるはずだ。でもな、でもな? 実は、中三の冬に………………ヒッ!?」
何やら楽しげだった言葉の途中で、光が引きつった声を上げた。
傍らの環の顔を見てしまった結果である。
「そうですの……」
表面上、笑顔ではあった。
しかし、纏う雰囲気は寒気を感じさせるもの。
「十七年も離れている間に、随分と愚かな羽虫が集まってきたようですわね……」
前世であれば、実際に冷気が噴出していたところであろう。
その光景を幻視でもしたのか、光は半歩分ほど環から距離を空けた。
「皆さん、お聞きなさい!」
逆に一歩踏み出し、環はよく通る声を張り上げる。
ちなみに言われるまでもなく、一部の例外を除けば教室中の全員がずっと環の言葉を聞いていた。
転校生が来たかと思えば即座にクラスメイトの一人の元に駆け寄り、それ以降ずっとこの騒動の中心となっているのだ。
さもありなんというところであろう。
そして一部の例外、すなわち庸一と黒もその声によって環へと目を向けた。
「わたくし、魂ノ井環はここに宣言致します」
一転、静かな調子で言いながら環は目を閉じる。
「兄様……平野庸一と結ばれるのは、このわたくしであると!」
かと思えば、それをカッと見開くと共に言葉通り高らかに宣言した。
「わたくしと兄様は、前世から結ばれるべき運命にあるのです! 前世でこそ、終ぞその悲願が叶うことはありませんでしたが……それも、全てはこの時のためであったと今になって理解致しましたわ! わたくしと兄様の間に割り込まんとする愚か者には、例外なく天罰……否、この私の手による人誅が下ると知りなさい!」
次いで、一息でそう言い切る。
『……おぉ』
どこからともなく、感嘆の声が上がった。
見目麗しい環が威風堂々と宣言する様が、演劇の一部のようであったためだろう。
「さぁ、わたくしと兄様に祝福を!」
『おぉ……!』
パチ……パチ……パチパチパチパチ!
徐々に大きくなっていくその拍手は環の言葉通り二人を祝福するためのものなのか、あるいは単なる演者に対する感心の表れなのか。
いずれにせよ、今回も手を叩いていない一部例外が存在していた。
「くふふ……なかなか面白いことを言うものじゃな」
例外の一人、黒が愉快そうに笑い。
「あ、これ、もしかしてマジのやつ……? 魔王だけでも厄介なのに、新たなライバルが……いやでも、兄妹なんだろう……? いやいや、今は血が繋がっていないからアリなのか……? いやいやいや、けど前世では……」
光が、思案顔でブツブツと呟き。
「マジで、転生しても変わんねぇな……」
庸一は、半笑いになりながらも懐かしさに目を細めていた。
◆ ◆ ◆
ちなみに。
兄様兄様と連呼していることから、当初「やべぇブラコンの妹が来たな……」と目されていた環。
しかし庸一との間に血縁関係がないどころかこの日が初対面であったという情報が広まるにつれて庸一の方を「初対面の転校生に『兄様』と呼ばせるやべぇ奴」と評する動きが強まっていき、庸一の半笑いを加速させるのであった。
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