終幕 新たなる旅立ち
軍師は部屋で書類整理をしている。シュターデン子爵とリイの講和後、大量に溜まっていた書類仕事を一人で片付けているのだ。
メルカッツ辺境伯家仕えの文官はシュターデン子爵が勝手に行おうとしていた仕事の変更に忙殺されており、軍師のやっている仕事まで手が回らないのだ。その為にリイに命令された軍師が仕事を行なっていた。その能力の高さから仕事を片付けるどころか能率を上げるやり方を開発する軍師はメルカッツ辺境伯家に仕える文官に救世主扱いされていた。
「こうして仕事をしている姿を見るとあなたは優秀なんだって思うわねぇ」
「普段はどう思っているかは聞かないようにしておくわ」
「下僕だと思っているわぁ」
「聞かないって言ったじゃん!」
アストライアは軍師の嘆きを笑いながら聞きながらお酒を煽る。
軍師はリイ付きの文官として正式に仕えることになり、アストライアもリイの近衛としてメルカッツ辺境伯家に仕えることになった。
だが、アストライアの仕事はリイの護衛と鍛錬をするくらい。その為にヒマな時間が大量にある為にこうして忙しくしている軍師のところに遊びに来ているのだ。
「リイも大変ねぇ」
「まぁ、カサの民として育ったから貴族の所作なんか知らんわな」
一番忙しくしているのはリイである。正式にメルカッツ辺境伯家に迎えられたリイは貴族としての所作を教え込まれているところである。
「私はモルトから騎士としての心構えを聞かされている時は聞き流すようにしているわぁ」
「アストライアは致命的なまでに騎士に向いてないよな」
「私はただの戦士よぉ。戦うことが本領なのに『主君の為に云々』言われてもさっぱりだわぁ」
「その割にはメルカッツ辺境伯家に溶け込んでいるな」
「その辺りは得意なのよねぇ」
そう言いながらアストライアはお酒を煽る。
「あなたは今何をやっているの?」
「俺がいなくなった後でも問題なく回るようにしている……っと、これで終わりと」
軍師の言葉にアストライアは首を傾げる。
「どこかにいなくなるのかしらぁ?」
「まぁ、少なくとも俺とアストライアはな」
「私もぉ?」
アストライアは首を傾げるが、答えは扉が大きな音を立てて開かれてやってきた。
「脱走するわよ!」
そう、リイである。
「毎日毎日礼儀作法、言葉遣い……そんなの知るか! 私はカサの民だ!」
そして怒りをぶちまけるリイ。そして怒った目で軍師を睨みつける。
「軍師、当然準備はできているんでしょうね!」
「その棚の中にリイの胡服と旅道具は整えてある」
「よくやった! 褒めてやるわ!」
軍師に言われた場所から胡服を引っ張り出してドレスを脱ぎ捨て着替え始めるリイ。ちなみに軍師の目はアストライアが高速で潰した。
「さぁ、軍師、アストライア! 旅に出るわよ!」
「「はいはい」」
リイの言葉に軍師とアストライアも部屋の窓から脱出する。もともと旅人だった軍師は常に持ち歩ける程度の荷物しかなく、アストライアも愛用の大剣以外に拘りはない。その為にあとは旅に出るのはリイの愛馬である星を連れ出せばいいだけだ。
「げ!」
そして星が繋がれている厩舎にてリイは乙女が出していけない声を出す。そこにいたのはメルカッツ辺境伯からリイ付きを命じられたアリシアであった。
「アリシア! 私の脱走を邪魔するなら斬るわよ!」
「流石は修羅民族。速攻で斬るという発想よ」
失礼なツッコミをした軍師をリイはどつく。そしていつでもソールを呼び出せる態勢になる。
そんなリイを見てアリシアは疲れ切ったようにため息を吐く。
「リーディア様。ヨアヒム様からご伝言です」
「爺上から?」
「『貴族になるのは後でもいい。好きに旅して見聞を広げなさい』とのことです」
アリシアの言葉にリイは嬉しそうな表情になる。
「流石は爺上! 話がわかる!」
「『だが、メルカッツ辺境伯家の人間として脱走するなら捕まらないようにすること。シュナイダー達にはリーディアを旅立たせることは伝えていない』ともおっしゃっておりました」
「クソ爺!」
軍師とアストライアは茶目っ気に笑うメルカッツ辺境伯を見た気がした。
リイは慌てた様子で星を連れ出す。
「アリシアはどうするの?」
「ヨアヒム様に定期的にリーディア様のことを報告する為に同行させていただきます」
そういってアリシアも用意してきた荷物を見せる。それを見てリイは笑顔になった。
「そ! 人数が増えて旅も楽しくなるわね!」
そして遠くからリイを探す騎士達の声が聞こえてくる。それを聞いてリイ達は慌てて駆け出す。
「待て待てリイ! 目的地はどこにする気だ!」
「とりあえずあなたのオススメする場所でいいわよ! やばい来た! 逃げるわよ!」
彼らの珍道中は始まったばかり……
イヴァリース大陸放浪記 惟宗正史 @koremunetadashi
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