第十六章 戦後処理
シュターデン子爵は兄であるメルカッツ辺境伯の講和提案を受け入れて、ヴェスラから引き払い居城であるジークデン城に戻っていた。
「嫡子であるカールスと莫大な金を失って手に入れたものは何もなしとはな……」
そう呟きながらシュターデン子爵はワインを飲む。
今回の企みはシュターデン子爵にとっての挑戦でもあった。常に自分の上を行き続ける兄。それを超え、富と権力を手に入れたいと思い、流れの軍師を雇って兄に毒を盛った。
全ては雇った軍師の読み通りに進んだ。軍師がいなくなった後も計画書が残っていた為に順調に進んでいた。
「全てはあの小娘のせいか」
シュターデン子爵の野望を砕いたのは十年以上前に行方不明になった姪の娘であった。姪が残っていればカールスと婚姻を結ばせて合法的にメルカッツ辺境伯家を乗っ取ることもできた。
「思えば始まりはあの時からだったのかもしれんな」
姪が行方不明になったと聞いた時にシュターデン子爵に生まれたのは薄暗い野望であった。
兄であるメルカッツ辺境伯には子供は娘だけで、男児はいなかった。その為に兄が亡くなった時、次のメルカッツ辺境伯になるのは自分だけであった。
最初は小さい野望の炎であった。しかしいつからか『自分にはメルカッツ辺境伯が務まる』と思い始めた。
「チチ」
「うん?」
小鳥の鳴き声が聞こえてシュターデン子爵は窓の方を見る。そこには珍しい色をした小鳥がいた。
「珍しい色の小鳥だな」
シュターデン子爵はそれだけで小鳥への興味を失った。
「しかし……兄上の毒が治されたのは何故だ。誰も見たことがない毒であったはずだ」
完璧に病に見せかける毒などなかったはずであった。
「息子であるカールスも失ってしまった」
そう呟きながらシュターデン子爵はワイングラスを置いて瞑目する。
「しかし、メルカッツ辺境伯の地位は諦めん。嫡子を失い、大量の金は失ったがまだ私は諦めておらん」
シュターデン子爵の言葉がわかったのだろうか、今年がシュターデン子爵の肩に乗ってくる。それを見てシュターデン子爵は優しい笑みを浮かべた。
「な! ぐ! が!」
突然シュターデン子爵は苦しみ始めた。心臓を抑え、床をのたうちまわる。
(なんだこれは! まさか毒! いやワインは私が開けた!)
必死になって助けを求めようとするシュターデン子爵。そして視界内に入ったのは珍しい色をした小鳥。
(まさか呪いか……!)
シュターデン子爵は最後の力を振り絞って小鳥の手を伸ばす。
だが、小鳥に手が届く前にシュターデン子爵は力尽きた。
小鳥はシュターデン子爵が死ぬのを見届けると音もなく消えたのであった。
「ふぅ」
「あらぁ、戦後処理は終わったのかしらぁ?」
「ああ、今最後の処理が終わったところだ」
「そうなのぉ。それにしても便利な魔法ねぇ」
「ふふん、そうだろう。もっと褒めてもいいんだぞ?」
「調子にのるからやめとくわぁ」
「酷い!」
そんな会話をする軍師とアストライア。アストライの指先にはシュターデン子爵のところに現れた美しい色をした小鳥がいるのであった。
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