第六章 山賊討伐

「それで? どうするの?」

 夜、星明かりの下で焚き火を囲むリイと軍師。

 二人はシュターデン子爵領に入ると賊が出ている村を回り、賊の規模を調べていた。

「賊なんてどこも一緒じゃないの?」

「バカ言え。こっちは二人しかいないんだ。確実に潰せる賊を狙うのが一番だ」

 そう言ってから軍師は悪そうに笑う。

「いやぁ、賊が選び放題とかちょっと楽しくなってくるな」

「なんで?」

「どうやって潰すか考える喜びがある」

 軍師の言葉にリイは軽く引いた。「こいつ何言っているんだ」的意味で。

「あ、でもあれじゃないの? ほら、イヴァリースでも有名な大盗賊団がいるじゃない」

「さて問題です。その大盗賊団の名前はなんでしょう?」

「……『盗賊王』?」

「なんだそのありったけの夢をかき集めそうな名前は。『シュヴァルツ・ファング』な」

「そうそう、そんな名前。なんかあの名前子供心を擽るものがあるわよね」

「わからなくもない」

 意見の一致をみたリイと軍師は握手を交わす。

「そのシュヴァルツ・ファングと繋がりを持っているって村人が言っていたわよ」

「……ああ、あそこか。まぁ嘘だろうな」

「嘘?」

 リイの言葉に軍師は頷いた。

「シュヴァルツ・ファングは義賊だ。狙うのは悪党貴族からのみだし、その活動は主に帝国の西側だ。こんな東の外れで村相手に活動するような小悪党じゃない」

「ということは?」

「ハッタリってことだよ。賊としての名前は通っているからな。何も知らない村人相手にはちょうどいい脅しってことだ」

 軍師の言葉にリイはつまらなそうな表情になる。

「なんだ。せっかく楽しい相手かと思ったのに」

 リイは軍師が「戦闘脳」と呟いたのを聞き逃さなかったので近くにあった小石を弾いて軍師の額に直撃させた。

 その衝撃に地面を悶絶する軍師、それを無視してリイは持っていた水を飲む。

「ねえ、提案があるんだけど」

「おぉ、いってぇ。なんだ?」

「どうせだったらシュヴァルツ・ファング騙ってる連中潰さない?」

「……なんで?」

「一番潰しやすい気がするから」

「根拠」

「勘」

 リイの言葉に軍師は掌を目に当てて空を見上げる。言いたいことは『こいつはもうダメだ』と言ったところだろうか。

「まぁ、調べてみてからだな」

「え? 明日乗り込むんじゃないの?」

「あなたはバカでございますか?」

 とりあえず失礼な事を言った軍師にリイは剣の柄でぶん殴る。先ほどの石と比べ物にならないくらい地面で悶絶した。

「どういう意味よ」

「グォォォォォ! 頭が割れるように痛い……!」

「大丈夫、割れてないわ」

「そういう問題じゃないんだが……」

 殴られた部分に治療魔法をかけながら起き上がる軍師。貴重な魔法という技術をこんなしょうもないやりとりで使っていいのかと軍師は思ったが、『まぁいいか』と思う事にした。

「相手がどんな砦を築いているか、どれくらいの人数がいるか。それを調べないと策の立てようがない」

「策ぅ?」

 軍師の言葉にリイは面倒そうな表情になる。

「そんなの使わなくても正面から突っ込んで皆殺しにすればいいだけでしょ?」

「その思想から抜け出せないせいで未だにカサの民はヴェスラを抜けないんだからな?」

 軍師の言葉にぐうの音もでないリイ。事実であるからだ。

「まぁ、明日ちょっと調べに行くか」

「……はぁい」

 軍師の言葉にリイはとてつもなく不満なのであった。






 リイと軍師は狙った盗賊団が根城にしている山に入っていた。

「調べるってどうするの? 殴り込み?」

「リイ、それは偵察じゃない」

 軍師はリイにそう返しながら魔力を編む。

「あら綺麗」

 そして無色の鳥を生み出した。

 リイはその鳥を指に乗せながら軍師に話しかける。

「この子は?」

「俺が魔力で編んだ簡易ゴーレムだよ。これを……こうすると」

 そして更に術式を鳥に編み込む。すると空間に鳥の視界映像が浮かんだ。

 それを見て感嘆の声を出すリイ。

「へぇ、便利ねぇ」

「まぁな。しかも魔力消費も少ないという素晴らしい仕様だ」

「あなた優秀な魔術士だったのね」

「何度も言うけど俺の師匠は伝説級のお人だからな?」

「私の呪殺に失敗したヘッポコのイメージしかないわ」

 軍師は解せぬと言った表情をしながら鳥を飛び立たせる。

 空を飛ぶ映像を見ながらリイは軍師に問いかける。

「これどうやって操ってるの?」

「編み込んだ術式に俺と魔力パスを繋いで、俺の微力な魔力を感知して動かせるようにしている」

「うん、さっぱりわかんない」

「やはり無学……」

 失礼な事を言った軍師の頭に拳を叩きつける。それによって飛んでいた映像が地面に落下したが、リイは気にしない。操作に集中していない軍師が悪いのだ。

 ブツブツと文句を言いながら軍師は鳥を操作する。

「お、あった」

 そして山の中にある小さな砦を見つけた。建物を塀で囲っており入り口のところに門番が二人立っている。

 軍師は塀の上に鳥を降ろして周囲を見渡させる。

「1、2、3……外に12人か。建物の中はどうだかな」

「あれ、あそこにちょうど良さげな窓があるわよ」

「それじゃあ見学させていただきますよ、と」

 軍師は鳥を操作して建物の窓に張り付く。

「お〜、お〜、真昼間から酒盛りとは賊らしくて結構」

「金目の物は……あら、結構溜め込んでいるわね」

 映像に映ったのは酒盛りをしている賊6人と、馬車一台分にはなりそうな金銀財宝。

「田舎の連中にしては溜め込んでいるな。さてはヴェスラに向かう商人を襲ってやがるな」

「これは正義の鉄槌を下すしかないわね」

「だな。その後に俺達の駄賃としてちょっとばかしもらうが、それは正義執行の必要経費だよな」

「そうよ」

 軍師とリイは力強く頷く。

 最悪の二人であった。

「どうやって潰すの? 18人くらいだったら私一人でもどうにかなるわよ?」

「まぁ待て。賊をやるような連中だ。どうせだったら恐怖を叩きつけて殺してやりたい」

 最悪な二人である。

「ん、そうだ」

「どうかしたの?」

「いや、ちょっとした実験をな」

 軍師はそう言いながらもう一匹簡易ゴーレムを作り出す。そして最初の一匹を門番二人のところに映す。

 そして今作ったのを飛ばした。一匹目の映像には遠くからやってくる二匹目の鳥が映っている。飛んでくる鳥を見て門番が何かを言っているようだが、言葉を拾うように作っていない。

 そしてものすごい勢いのまま二匹目の鳥が門番に向かって飛んでいく。

 片方の門番の上半身が汚ねぇ花火になった。

「「うわぁ……」」

 やらかした二人もドン引きだが、現場では大混乱になっている。それはそうだろう。鳥が飛んできたと思ったら自爆して味方が殺されたのだ。建物内にいた賊も慌てて出てくる。

「……なにやったの?」

「いや、実験で鳥の中に攻撃魔術式を編み込んでみたんだよ。したら操作可能な魔法兵器ができた」

「威力も申し分ないわねぇ。それ何個も出せるの」

 リイの言葉に軍師は先ほどと同じ鳥を一瞬で5体出す。

「さっきも言った通りあんまり魔力食わないから一瞬でいくらでも作れる。だが、操作を考えると5体が限度だな」

「連射も可能だったら弓より圧倒的に上じゃない」

 リイの言葉に軍師渾身のドヤ顔である。リイはそれが気に入らなかったので腹パンして強制的に蹲らせた。

「策は?」

「この痛みに慣れつつある自分が怖いな……」

 治療魔法をかけ終わった軍師は立ち上がる。

「リイの性格的に正面から斬り込むの好きだろ」

「もちろん」

「やはり修羅民族……」

 否定できないし否定する必要もない事なのでリイは軍師の言葉をスルーした。

「それじゃあ簡単だ。リイが正面から斬り込むのと同時に俺が鳥で賊を爆散させる。建物の中に逃げ込んだのはリイに任せる」

「外にいるのは?」

「全部俺が片付けるよ」

「いつ行く?」

「せっかく混乱しているみたいだからすぐに行くか」

 軍師の言葉にリイは獰猛に笑う。そして勢いよく星に乗ると賊の本拠に向かって駆け出していく。

 それを見送って軍師は頭をかく。

「やれやれ、狂戦士だな」





 リイは星で駆けながら自分の気持ちが高揚するのがわかる。

 戦いこそがカサの民の本領。

 相手が賊ということが不満だが、まぁ戦いになるのならいい。

 星を駆けさせていると賊の砦が見えてくる。入り口に四人。すれ違いざまに二人の首を飛ばす。残りの二人を気にせずにリイは砦の中に入る。

 すでに残りの賊13人が目を怒らせてリイを睨みつけている。

「なんだテメェは!」

「そうね、あえてこう名乗ろうかしら」

 賊の首領と思わしき男の言葉にリイは凄惨な笑みを浮かべる。

「正義の味方よ」

 その言葉と同時に空から五匹の鳥が降ってきて五人の賊が爆散する。

 それに賊達は悲鳴をあげて逃げ惑う。そんな隙を見逃すほどリイは甘くない。即座に距離を詰めて賊を斬り殺す。

 打ち掛かってこようとする賊もいたが、リイの相手ではない。逃げようとする賊は軍師の鳥で爆散させられていた。

 リイは剣についた血を払いながら腰を抜かしている賊の首領に近く。

「こ、降伏する! だから命だけは助けてくれ!」

「あら、面白い冗談」

 リイはそう言って賊の首領の首を飛ばした。飛んだ首を見ることもなく、リイは剣を振るう。

「つまらない相手だったわね。これじゃあ戦わない方が良かったかしら」

 血まみれになった賊の砦をリイは歩く。そして建物の中に入った。そこには先ほど軍師の鳥を通して見た宝物が溜まっている。

 リイはそれにしゃがみ込んでいくつかの宝物をとる。

「……どれくらいあったら路銀になるのかしら」

「そこまでの量はいらんよ」

 リイの独り言に合流してきた軍師が言う。軍師はリイの隣に屈み、いくつかの財宝を手に取る。

「まぁ、これだけあったら大丈夫だろ」

 そう言って軍師は自分の懐に財宝をねじ込む。リイも真似をして同じくらいの財宝をねじ込んだ。

「残りはどうするの?」

「う〜ん、近くの村にでも持ってくか」

「どうやって?」

 リイの言葉に軍師とリイは財宝の山をみる。どうやって集めたのか馬車一台分になりそうな財宝の山。

「……担ぐ?」

「私はまだしも体力なしのあなたには無理でしょ」

「否定できないんだよなぁ……」

 リイの言葉に軍師は遠い目をする。

「まぁ、これだけの量を運ぶんだったら台車の一つくらいあるだろ。それ探してリイの馬に繋いで運ぶしかないだろう」

「私の星に荷馬の真似事をさせるつもり?」

「それは許して」





 その後、二人は財宝を載せられる台車を見つけると、二人で麓の村まで財宝を運んだ。

 賊の討伐と財宝。それらを運んできた二人を村人達は大歓迎した。

 大騒ぎしている村人から離れて軍師は星空を眺めている。そこにリイが近づいていく。

「呑まないの?」

「俺は下戸だ」

「へっぽこ」

「やかましい」

 リイの揶揄いに軍師は言い返す。リイは麦酒を呑みながら軍師の隣に座る。

「次はどこに行くの?」

「行きたいところあるか?」

 軍師の言葉にリイは考える。

「何か珍しいもの見たいわね」

「珍しいものねぇ……」

 リイの言葉に軍師は少し考える。

 だが、すぐに何か思いついたのか口を開いた。

「ここよりちょっと西に行ったところに神代から続く伝説の剣を祀っている町があるな」

「伝説の剣? なにそれ胸がときめくわね!」

 軍師の言葉にリイは嬉しそうな表情になる。

「斬れ味はどうなの?」

「抜いたことがある人がいないからわからん」

 軍師の言葉にリイは首を傾げる。

「どう言うこと?」

「言い伝えでは伝説の勇者のみがその剣を抜ける……って話らしいな。実際に抜いた奴がいないから今でも信じられているみたいだがな」

「う〜ん、まぁでも財宝よりは武器の方が見て楽しいわね」

「年頃の娘としてどうなんだ?」

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