第2話 遭遇

「巨人・・・・・・!」




自分の発したその言葉に自分自身でも驚いていた。夢か真実か分からなかったそれが目の前にいるのだ。だが、俺はこの瞬間を待っていたのかもしれない。気持ち悪いほど気分の高鳴りを感じた。




が、巨人は夢で見たように大きくは無かった。目の前にいる怪物と同じ位の身長であった。5mほどだろうか?




「というかあの少年が巨人だったのか・・・・・?」




(早くここから逃げて!)




俺の脳の処理がおいつく間もなく、脳内にそんな声が聞こえた。どこから発した声かは分からなかったが脳内にそれが響きわたっていたのだ。




その声聞くや否や言われるがまま俺はそこから逃げた。必死に逃げた。先ほどの気分の高鳴りはどこへやら、俺は命の危険を感じてか、脱兎のごとく逃げ始めていたのだ。




息が切れる頃には巨人は少しばかり小さく見える場所についていた。はなれた場所からその戦闘を見ることにした。




そして巨人は俺が離れた事を確認したら早速怪物に殴りかかっていった。




だが怪物は触手を地中から発生させ、巨人の両腕に絡ませた。




巨人はもがきながら抵抗していた。引き剥がそうとするがその触手は太く力強かったからか、中々解けなかった。




怪物はそれを確認した後、4つに別れた口を大きく開き、捕食するようにゆっくり近づいく。




「まずい!そこから逃げるんだ!」




俺も叫んでいた。




が、巨人の両腕が炎のようなものを両腕に発生させた。




瞬間、その炎が怪物の触手を溶かしていった。




ギィィィィィ!!と怪物も想像を絶するような声を出した。




「今だ!」




また俺は巨人に叫んだ。




巨人は右腕から粒子のような物を放出する。




その粒子は次第にある形を形成していく。




それは5年前に俺が見た剣であった。




それは雑木林の長さを優に超えていき、大空にそびえ立つ1本の大きな剣になった。




「なんなんだ、これは?」




フンッ!巨人はそれを怪物に振り落とした。




振り落とされた剣は怪物の脳天を直撃し、1秒の間もなく、瞬時に怪物を真っ二つにした。




怪物の断末魔だけが辺りに響いた。



そしてその力尽き、ふたつに引き裂かれた体はパタリと地上に伏せた。




巨人は倒した直後に膝をつき、また光に包まれた。キレイなクリスタル色をしたそれは周りの木々と比較しても異彩を放っていた。




するとすぐに光は解かれていき、あの少年の姿に戻っていくのが分かった。




俺は戦闘を終えた事を確認し、少年に近づいていく。




「大丈夫か?」




少年もフラフラになりながらも俺に近寄ってきた。重たい体を起こしながら近づいてくる。


そんな彼をぎゅっと抱きしめる。




「俺はいい。そんなことより君は大丈夫なのか?」


「逃げて…!」


「え?」



俺は少年の声があまり聞こえなかった。




だが少年は叫んだ。




「そんなことより早くここから去ってください!」




は?少年の言う事を俺は分からなかった。




「その必要はない。」




後ろから聞こえた。男の声だった。




その瞬間、俺は重く鈍い感覚だけを感じ、何も感じなくなった。







俺は目を覚ました。




寝ていた。という感覚は無い。天井のシミは多く、数えるのに時間をかけるなという感想がふと出てしまった。




ふと体を動かすと全身に鈍い痛みが走った。




辺りを見渡すと真っ暗な部屋に目の前にある鉄格子。まるで牢屋であった。




「目が覚めたかね?」




どこからか音声が聞こえた。




「誰なんだ、あんた、一体・・・」




俺は考えている暇が無かった。ただ今のこの状況がよろしくないという感覚だけは身につけることは出来た。




「ここから出せ!」




立ち上がり、痛みに耐えながら鉄格子にしがみつき、それを揺らした。




「まぁ待ちたまえ。そんなに焦らないでくれたまえ。」




謎の男の声は悪い悪代官のような声で俺を舐めたような態度で話しかけてきた。頭に血が上る。




「ふざけるな!あんたらは何を考えている!俺を閉じ込めてどうする気だよ!」




鉄格子は大きく揺れ、大きく軽い音が聞こえるだけだった。血がMAXまで上ったのが自分でも分かる。




そして1分もしないうちに黒い服に身を包んだ男が3人ほどやってきた。




「大久保隆だな!」




男の口調は偉そうにしていた。そして持っていたキーが開けられ、扉が開いた。




「早くこちらに来い!」




黒い服の男は偉そうな態度であった。ふー!ふー!と興奮状態の俺だったが鉄格子から開放された途端に体が冷静になっていくのがわかった。




俺も逆らうような事はせず、大人しくついていくことにした。




しばらく歩くと俺は会議室みたいなところに連れていかれた。有無を言わさず目にタオルを付けられ、目隠しをされてしまう。少しの抵抗も見逃さないあたり奴らはプロなんだろう。抵抗する暇さえもなかった。




キィっと重々しく扉が開き、黒い服の男に連れられ、中に入る。そして目隠しを解かれた。




中を進んでいくとまた男の姿があった。




「ようこそ!といいたいが、私は生憎だが君を歓迎出来る訳では無いんでね。」




金髪で長髪の男は愉快な口調であった。先ほどのどこからともなく聞こえた男の声と一致した。




年齢は20代後半位であろうか。




「あんた誰なんだ。一体。」




俺は当然の質問をした。




「詳しくは語れない。君は我々の秘密を知ってしまっているからな。」




目の前の男はまたもや偉そうな口調で俺に語りかけてきた。




「秘密だと?」




聞き返したが俺は多分この時には分かっていた。




「我々の被検体の秘密に触れたではないか。」




俺には男の言っている事がわからなかったが、カンで答えてみせた。




「あのガキンチョの姿が変わることか?」




なんであんなことができる?お前らは何を知っている?




俺は質問を続けていった。が、相手から返事が返って来ることは無かった。




「お前、少しうるさいな。拘束されている身なのだ。弁め。今から君を不慮の事故にみせるなり、謎の自殺として君を処理する事もできるんだぞ?」




男の目は本気だった。まるでそれを慣れたような事の様に見せる。




俺は何も言い返しはしなかった。冗談に見えないその目から俺は恐怖を覚えた。




「そしてここで私からの提案だ。」




男の言葉から俺は耳を疑った。




「提案だと?」




「そうだ。彼の秘密を知ってしまった、ある種救済の手を差し伸べているつもりだがね。」


これは脅迫と同じだ。




「要約すると我々の考えに背くようならここで抹殺して裏山に捨てるって事だろ?」



こういう質問はYES以外の答えは持ち合わせないように設計されているものだということはこういうのに疎い俺でもわかる。



「そう聞こえたかね?」




男は笑った。




「救済の手を差し延べるなんてよくもまぁ抜け抜けと言えたもんだな!」




俺は怒った。が、




「で、どうするんだ?」




男は俺の怒りを無視したのだ。平然と答えたそれにより一層の怒りを覚えたが相手の返事に冷静に答えた。




「少しだけ時間が欲しい」




今は自分の置かれた状況すらも分かっちゃいない、そんな中でこいつらと長々話して結論を抱くのは間違いだった。


男はまた笑った。先程よりも大きな声で。


「面白い。今日は帰りたまえ。」


男の言葉通り俺はまた目隠しをされて黒服の男に連れられた。


歩くこと5分。その施設から何とかその場をくぐり抜け、家路に辿る途中だった。




目の前にあの巨人に変身した少年がいた。




「君のせいで俺はこんな事になったって八つ当たりしたくなるね。」




命の恩人になるであろう人間に言う言葉ではない事は俺にも百も承知だった。だが、開口一番は皮肉しか言えなかった。




「すいません、こんな荒っぽい事になってしまうなんて・・・。僕自身こんな事になるなんて思ってもみなくて・・・。」




少年は申し訳なさそうに言った。


その言葉のせいで自分が発した皮肉が凄く子供じみたように思え、恥ずかしかった。



「いやまぁ、命を助けてくれたんだ。ありがとよ。」


自分を取り繕うように最低限の感謝だけは伝える。



「まぁ僕もあの生物を殺すのが仕事みたいなものですから・・・。」




少年は照れて言った。このことで礼を言われるのが初めてなのだろうか?物騒なワードが並ぶが言葉は柔らかかった。




「俺は大久保隆。君は?」




「僕は結城淳と言います。」




少年は手を差し出した。




「これからもよろしくな、淳君。」




差し出した手を掴み、握手をした。何故だかこれからも長くこの少年と絡んでいくことだけは理解出来た。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る