女神懊悩! ~睦月アズサ編~ ②-④
光陰矢の如し、とはよく言ったもので、あっという間に受験当日。
憎ったらしいあいつは受験会場へ、アズサさんは仕事先の喫茶店へ。
私はというと、
「うめちゃん、おはよ。調子はどう?」
私(本体)のある病室へ来ていた。
『おはようございます……。おかげさまで今のところは順調ですよ……』
「そっか。よかった」
『……? どうされました……?』
うめちゃんは私の異変に気付いたのか、気遣う言葉を投げかけてきた。
「ううん、今日が依頼者の彼氏の受験日だから、ちょっとナーバスになってるのかも」
そうでしたか……。と返すも、やっぱり心配そうな雰囲気でこちらをうかがっている彼女。
「ねぇ、ちょっと聞いていいかな」
うめちゃんは何も言わないけど、いいですよって言ってくれているような感じがしたので、気になった質問をしてみた。
「やっぱり、お仕事の中には投げ出したいって時もあったりした?」
彼女は少し考えこんだ後、
『……えぇ、そうですね。人間ですから仕方ないことなのですけれど……、他力本願で自分の進む道を決める方も、多かったです……』
それでも、りこさんほどではないですけどって笑った。
『それでも、本来ならば見守るだけなのですけど、受けた願いはしっかりと果たすべきって……。誰からも、褒められることはないのですけど、依頼者が笑ってくれると……、どうであれ、やっぱり、嬉しいですからね……』
彼女と最初に会った時は、すごいおどおどしていて頼りないって思ってた。
でもそれは、どうにかして最高の結末へ進むよう常に考えているからだったのだろう。
きっとそれは私に、徹底的に足りないものだ。
『りこさん……、用件って、それだけじゃないでしょう……?』
「やっぱり、お見通しだったのね」
さすが女神様と茶化すと、照れながらうめちゃんは笑った。
「実は、うめちゃんにお願いがあってさ。最後の神頼みってやつ」
◆
受験の手ごたえはあったようで、試験会場から現れた彼は晴れやかな顔をしていた。
一応それなりに手助けはしたのだし、上手く行ってくれてないと困るのはこっちだ。
一方で、心配そうな顔で彼を迎えるアズサさん。
見た目がただでさえ幼いのに、不安そうな顔をしていると尚の事幼く見える。
さすがにここで職質されてショウタ君がしょっぴかれると今度は別の意味で困るので、受験の神様の顔に免じて元気を出してほしいところだが。
「私も、本来ならそっち側で結果発表を待ってたんだろうな」
能天気面のショウタ君と心配が顔に出ているアズサさんを見ていると、ちょっとだけ羨ましく思った。
私がその気分を味わうことが出来るのは、少なくともあと一年は待たないといけない。
まぁ、神の一手がなければ世界が崩壊しているらしいので複雑な気持ちでもあるけどね。
一喜一憂している二人を眺めていると、後ろから声を掛けられた。
「ねぇ、ちょっと……」
「うわぁ! なにやつ!」
この身体になってうめちゃんとしか関りがなかったせいか、めちゃくちゃ焦って距離を取りファイティングポーズを取ってしまった。
「ちょっと、警戒しないでよ。アンタが飛梅の代わりやってる人間よね? 遅くなってごめんね」
「え……、あぁ、ごめんなさい!」
待ち
大人しめなうめちゃんもそうだけど、ちょっと色黒で派手な金髪のいかにもなギャルっぽいこの女神様といい、女神って割と自由なのね。
やたらと語尾が上がる喋り方が気になって仕方ないけど、どうやら約束通り来てくれたみたいだ。
「あ、あの、私、滑川梨子って言います。 よろしくお願いします!」
「緊張しなくていいよ。あーし、
そう言って、眼前の二人を指さすブッキー。
「えぇ、お願いしますね」
「おっけー☆ 任せといてね?」
彼女が手をかざすと、ぶつぶつと呪文を唱えた。
「おっし、仕込みは上々かな? これでいい?」
「大丈夫です……みたいな?」
いけない、語尾が移った。
ともあれ、人事も
◆
あれから一週間。今日が結果発表の日だ。
ショウタ君の部屋のパソコンで結果を確認する二人の後ろで私も結果を見届けている。
一向に現れない受験番号におろおろと相変わらず心配性なアズサさんに対して、まだへーきだってと相変わらず能天気なショウタ君。
アズサさんもあれだけど、自分の事なんだから君はもう少し本気になれよショウタこの野郎。
にしても一向に彼の受験番号が表示されず、ただPC画面だけがつつつーっと下に流れていく。
まさか落ちたの……、と私も心配になってきたけど、
「んー、そろそろ……お、あったあった」
画面の中央には、彼の受験番号が表示されていた。
「よかった、よかったよー」
嬉しさのあまり、泣きながら彼に抱きつくアズサさん。
彼の事情を知らなければ、きっと私も嬉しさで飛び跳ねていたのは想像に難くない。
途端に、私の全身に力がみなぎるのを感じた。
と言うことは、依頼は達成したとみなされたということだ。
泣いて喜ぶ彼女には悪いが、本来の仕事は終えたので、ここから先は私のあずかり知らぬ所と先に言い訳をしておこう。
せっかく戻った奇跡の力の大部分をショウタ君に流し込み、ブッキーに仕込んでおいてもらった仕掛けを発動させる。
ピリリリリリッ!
「ん? 俺のスマホか。もしもし……えっ、何でここに来たんだ。ちょ、ちょっと待て! 今はマズ……」
ショウタ君が取った電話の相手は、彼が必死に止めるのを無視してズカズカと音を立てながら部屋へと近づいてきて、
「いぇーい! ショウタ、大学合格おめでとーう!!」
「ば、バカ! 今来るなって言っただろ……」
急に現れた珍客に、ポカンとした泣き顔で、
「ショウタ君? この人は……」
「あ、どうもこんにちは。私、ショウタの彼女のリツコって言います!」
「えっ、え、かのじょ、って……?」
「あれ、聞いてなかったんですか? 私たち、高一からずっと付き合っているんですよ。 そういえばあなた、ショウタの妹さん? にしては似てないけど」
「私、ショウタ君の彼女のアズサです。 ねぇ、これってどういうこと」
彼はいつもの余裕綽々とした顔も出来ず、冷や汗をかきながら、
「い、いや、その、これは」
しどろもどろに言い訳を探している様を見て、アズサさんは、
「もしかして、二股かけてたんだ」
ずっと掴んでいた彼の腕を離して、彼に詰め寄った。
「その、……ごめん」
「えっ、えっ、どうゆうこと? ねぇショウタ、説明してよ」
この状況を切り抜けることが出来ないと判断した彼は観念したのか、二人に事情を説明し始めた。
大学受験前に親が家庭教師を雇ったこと。
その家庭教師、つまりはアズサさんと良い仲になり、元々リツコさんと付き合っていたけれどそれを内緒で付き合い始めたこと。
そして、アズサさんよりリツコさんのほうが好きだということ。
すべてを聞き終えたアズサさんは、
「そっか。……まぁ、しょうがないか。私、こう見えておばさんだから」
そう言って立ち上がると、
「ショウタ君、大学合格おめでとう。それじゃ、さよなら」
一人、部屋を後にした。
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