女神懊悩! ~睦月アズサ編~ ②ー③

 やる気は満々だけど暴走して結果を出せなかったら意味がないので、先に何をすべきかの優先順位を決めておこう。


 ① ショウタ君の大学合格。


 これだけはホントにやりたくないのだけれど、彼女の願いだし学問の女神として依頼を受けた以上、これを外してしまってはダメだろう。


 入試まで残り一週間切っているけど、自己採点の結果は志望校の合格ラインに合格寄りだけど割とすれすれ。


 マジで気合い入れろショウタ君。


 ② 私の力の回復。


 放っておいても問題ないけれど、いざという時に力が使えないのは不便だし、現在もうすでに行動に制限がかかっているので重要度は高め。


 ちなみに、絵馬に描かれた依頼内容を成就させると力は即時完全回復するらしいけど、時間経過だとおおよそ三週間ほどかかるそうだ。


 ③ アズサさんのショウタ君との関係性の解決。


 ぶっちゃけるとこれはしなくてもいいけど、女の好意を踏みにじったらどうなるか、今後の人生の教訓としてアイツに教えてやりたい。


 とは言えくっついた方がいいのか別れた方がいいのか判断に悩むところではあるかも。


 さて、どうしたものかな。


 だけど、こうやってしなきゃいけないことを書き出しておくと便利じゃない。


 受験生時代はとにかく試験で悪かったところだけ勉強してたって感じだったから効率悪かったなって改めて実感した。


 さて、やることも決まったし、そうと決まれば。


「寝よう、おやすみなさい!」


 頭がぽっかぽっかとしててうまく眠れるかは分からなかったけど、少しは休眠を取って力を回復しなくちゃ。


 見とけよショウタ君、女神様の力を思い知れ!


 …………なんて思ってたらいつの間にか眠っていたみたい。


 気づけば昼だなんて、さっすが天界の寝具、永眠するかのように眠れたわ。

 さて、力はどれくらい回復したのかな。


 うん、相変わらず私の透明度は高めで無理は禁物ってところかな。


 出来ることなら学校にも着いていって常に集中できるよう呪文をかけ続けたいのだけれど、家の勉強の時くらいしか無理そうね。


 学校へ飛ぶ必要がないのなら、アズサさんの所へ行ってみるとしよう。


 一応、彼女が普段なにをしているのか把握しておくのも大事だろう。

 それでは早速、行ってみましょう。


 あい、きゃん、ふらーい☆


 と、飛んできたのはお洒落なカフェ。


 シックで落ち着いた店内に、これまた落ち着いた雰囲気の年上女性がメニューを伺ったりコーヒーを提供したりしている中、異彩を放つ店員が一人。


「いらっしゃいませー、お好きな席へどうぞー」


「お待たせしましたー、ブレンドコーヒーです。ごゆっくりどうぞー」


「ねぇあれ小学生?(ひそひそ)」

「いや、さすがに、ねぇ?(ひそひそ)」


 まぁ、アズサさんって見た目は小学生だからね。


 訝しんで彼女を見ているお客さんも、やがてはてきぱきと水や商品を運ぶ姿を見て微笑ましさで和んでいた。かくいう私もそのうちの一人だ。


 店内を所狭しとせわしなく働いていた彼女が仕事を終えたのは、私が様子を見に来てからちょうど30分後くらいだったから、いいタイミングだったみたいね。


 更衣室で服を着替える彼女の元へ、何人か同僚がやってきた。


「アズサおつかれー。今日も家庭教師のバイト行くの?」

「うん、行くよ。本番まであとちょっとだし、ちょっと危ないラインだから、しすぎてもいいくらいだし」

「頑張ってるよね、アンタって。にしてもさ、アズサってホント、波乱万丈な恋愛やってるよね」

「え、それってどうゆうこと?」


 会話の中に気になる内容が。聞き耳を立ててみると、


「いやさー、この子って恋愛運がないのか、もう結婚している男だったり、何股もしているような男ばっかり好きになっちゃうんだよね」

「ちょっと、それ言わないでよ」

「うわ、たまにいるよねそうゆう人。でも今回は年齢以外はいい人なんでしょ」

「んー、うん、まぁね。でも、今回でダメだったら、恋愛は諦めようかなって思ってるの。歳が歳だし」

「いや、アンタは年齢より見た目若いんだから大丈夫だって」

「ホントだって。しかも胸だってこんなに実らせちゃって、このこの!」

「やんっ……、ちょ、ちょっと揉まないでよっ!」


 服の上からは分からなかったけど、確かに、デカい。


 何食べたらそんなに発育がよくなるのだろう。


 いや、そんなことはいいんだ。


 眼下でじゃれているアズサさんは楽しそうにしているけど、やっぱり恋愛運はダメダメみたいでちょっと心苦しい。


 知らせるべきか、そうしないか。


 知らなければ幸せなことだってあるけど、それは結局後々の傷を深くするだけだと思う。


 だけど、今はあの野郎を大学受験に集中させるためにも保留にしておいた方がよさそうだ。


「こういう時、うめちゃんならどうするだろう」


 いや、だめだ。


 いっその事相談してみるってのも手だけど、これに関しては私が勝手に顔を突っ込んでいるだけだって話だから、自分の力でどうにかすべきだろう。


 一旦戻ることも考えたけど、少しでも力の消費を抑えるために、着替え終わってお店から出てきたアズサさんにくっついて移動することにした。


 結構長い距離をしっかりと歩む彼女が向かった先は、アズサさんが願いごとをしたあの神社。


 その足取りで迷うことなくご神前へ進み、賽銭を入れて二礼二拍手すると、


「お願いします、どうかショウタ君が大学に合格しますように」


 同情したくなるほどの一途さに、事情を知ってしまった私は少しだけ胸が痛んだ。


 もちろん、ここまでまっすぐな願いを聞き入れないほど、私は怠惰な女神ではない。


「うん、任せて。あいつの努力次第だけど、何とかしてみせるからね」


 その言葉が伝わったのか、嬉しそうな顔で一礼した後、この神社から去っていった。


 願い事をしたのが彼女で本当に良かった。


 もしこの案件がショウタ君であったなら、私は今頃発狂しているかもしれないからね。

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