女神懊悩! ~睦月アズサ編~ ②ー①

 手助けと言っても、現状知っているのは名前と年齢だけで情報が少なすぎるので、アズサさんについて(憑いて?)いくことにした。


 すっかりと暗くなってしまった夜道を急ぎ足で進む先は、昭和の良家を彷彿とさせる古びた一軒家。


 若い女性が住んでいる家としては意外だと思っていたけれど、玄関の引き戸の横のチャイムを押したので恐らくは彼氏のショウタ君の家かな。


 彼女がチャイムを押してすぐに現れたのは、のんきそうな顔だけど背丈も体格も恵まれた男性。


 お兄さん? と思ってたら、男は熱烈なハグで彼女を迎え入れた。


 まさか、とつい近くの柱に隠れて聞き耳を立てると、


「もう、次はちゃんと課題やるのよ? そういう癖付けとかないと、社会に出たら大変なんだからね?」

「ごめんよ、アーちゃん。今日は家族みんないないけど、とりあえず中に入って」


 すすすっと招かれるまま家の中に入っていくアズサさんと、辺りを見回して誰もいないのを確認して戸を閉めるショウタ君。


 ちょ、ちょっと待って、今家族いないって言った? 


 ひとつ屋根の下に恋人二人きり、何も起きないはずもなく……?


 コンプライアンス的にもまずいし しかも彼氏は未成年だから法的にもアウトじゃん!?


 と、止めなきゃ! と大慌てで戸をすり抜けようとしたけど、見えない壁のようなものに阻まれて侵入できなかった。


 ならば瞬間移動……ダメ! 部屋に移動出来ない!


 手段が何も思い浮かばないまま時間は進んでいく。


「だ、ダメだって! 赤ちゃんはまだ早いの! 私だってまだ経験すらないのに!!」


 うがあぁぁぁぁ、と頭を抱えていると、目の前に映ったのは、先ほどアズサさんが押したチャイム。


 これだ! と、呪文を唱えて指先に意識を集中させて、ピンポンを連打した。


 しばらくして、先ほどののんびりした顔がぬっと出てきた。


「はい、どちら様……? あれ、誰もいない」


 私はその開いた戸の隙間をすり抜けて室内に侵入、急いで彼の部屋と思しき空間へダッシュ!


「え、えっちはまだ早いよ二人ともっ!」


 叫びながら部屋に侵入して私の視界に飛び込んできたのは、ショウタ君が受けるのであろう大学受験の過去問を採点しているアズサさん。


「あ、あれ……、普通に勉強してる……。よかったああぁぁぁ」


 勘違いの安堵で漏らしたため息が、途端に勘違いの羞恥に変わっていく。


 いや、違うんですよ。


 確かにはしたない妄想はしましたけれどもね。


 思春期の男子高校生なんてケダモノじゃん。


 何かにつけて、こう、繋がろう(意味深)とするじゃない!


 更に彼女がロリ系統とは言え美人さんなんだから、もうお祭り(意味深)じゃん!


「私はわるくなああぁぁぁぁいっ!!」


 一体誰に言い訳しているんだろう。


 気付けば部屋に戻ってきてたショウタ君も机に向かって勉強してて、その横で問題の解説と過去問の答え合わせを並行してこなしているアズサさん。


 いい雰囲気で二人三脚、頑張っている光景に安心しつつ、


「……反省しよう」


 自分の醜さを改めるいい機会になった、と思う。


 ちょうどいい、二人の間に割り入るのは気が引けたけど、サポートしなくちゃ。


「ちぢんふゆう、ごよのおたから。ショウタ君の集中が続きますように」


 私の手からほわっと柔らかい光が流れ出て、勉強中のショウタ君を包み込んだ。


 ま、こんなもんか。


 元々釣り合いが取れているコンビみたいだし、手がかからないのは良いことだわ。


 余裕綽々、という言葉が私の満足度を満たしたので、自分の勉強でもするとしよう。


 さすがに勉強は持ち込んでいないし、そもそも今はモノに触れないので、ショウタ君の後ろから大学の過去問を覗き込んで、一緒に解くことにした。


「ん、何だか寒気が。妙に肩が重いし……」


「ちょっと、大丈夫? 無理はしちゃダメだよ?」


 この心霊現象が私の仕業と気づくことは(私も)出来なかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る