女神代行! ~滑川梨子編~ ①-⑤

「この移動方法、便利だけど慣れそうにないなぁ」


 まだ身体に残っている浮遊感に顔をしかめつつ、辺りを見回すと、私の住む街外れの神社の境内のようだった。


 日も暮れてきている上にこの辺は街灯設備が心許ないから出歩くのは心細いだろうに、それでもここに来てお参りするなんてよっぽどの事なのね。


 どれどれ、とその参拝客の顔を拝見すると、見るからに小学校くらいの背丈の少女。


 ますます危ないと感じたので、思わず声を掛けようとして、その子が必死にお願いをしていることに気付いた。


「お願いします、どうかタクヤ君が合格しますように……」


 まるで流れ星に対してお願いしているかと勘違いしてしまうほど、高速でぶつぶつと唱えている。


 先ほどから光っているお守りだけど、もしこれの光量が本人の願いの本気度と比例しているとしたら納得できる程の必死さね。


 うめちゃんから教わった通り、彼女の横に寄り添い、呪文を唱えると、ぽんっと頭の上に絵馬が出現した。


 それを手に取り、書いてある文字を読み上げた。


『彼氏のショウタ君が大学に合格しますように    27歳 睦月アズサ 』


 なるほど、彼氏の為に合格祈願か。


 見た目通りなかなか可愛い所あるじゃない……27歳?


 つい絵馬と今だお参りをしている彼女を交互に何度も見返すも、顔の幼さや身長、どこをとっても小学校高学年にしか見えない。


 しかも大学合格ということは、お相手は恐らく高校生。


 ということは、未成年……?


「い、いやいや! 社会人の彼氏が大学受験することだってあるだろうし……」


  必死に自分を納得させる材料を探していると、



 ピリリリリリッ!!



 凛と静かな世界を、電子の呼び出し音が支配した。


 びっくりして何事かと構えている私をよそに、参拝中だったアズサさんがポケットからスマホを取り出すと、


「もしもし、ショウタ君? もう学校は終わったの? ダメじゃない、課題はきっちり終わらせておかないと。高校生だからって、そんなんじゃ後で痛い目見るわよ。え、私? 今は……」


 合法ロリお姉さんに未成年DKの禁断の恋。


 私の女神代行と言い、世の中って自分の想像以上に不思議で満ちているのね。


 人の恋愛にとやかく言うつもりはないが、初の仕事がこれで大丈夫なのだろうか。


 不安が頭に定住しつつあるものの、背に腹は代えられない。


 お守りを手に握りしめて念じると、それは大きな判子へと姿を変えていった。


 その判子にペタペタと朱肉を付けると、私は声高らかに宣言した。


「ちぢんふゆう、ごよのおたから! 女神代行、滑川梨子の名において、この者の合格祈願を応援します!」


 バン! と判を押された絵馬には、でかでかと『受領』の二文字が朱く輝く。

 

 これで初期手続きは完了。


 上手くやれるかは不安だけれど、女神初仕事、スタート!






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