化け物バックパッカー、化け物発明家と出会う。
かつては化け物の姿をしていた友人を見かけた。今は人間の姿をしていた。
「コンナ姿デモ、問題ナイサ」
雨音の響く暗闇の中で、ひとりがつぶやいた。
人間とは思えない、奇妙な声。あいつの声だ。
「問題あるだろう。俺は平気だが、突然変異症で変化したその姿を他人に見られてみろ、あっという間に大騒ぎになるぞ」
もうひとりが反論する。
老人のような声。客人であろう。
「
何かをあさるような音。
「なんだ、ハロウィーンの余り物か?」
「確カニソノ使イ方モデキルガ、モット有効的ナ効果ガアル。着テミロ」
奇妙な声が言うと、なにやらゴソゴソと衣服を着るような音が聞こえてくる。
「……ただの中から外の様子が見えるローブじゃないか。不思議と暑くないが」
「モットフードヲ深ク被リタマエ。ホラ、姿ノホトンドヲ隠セテイルゾ」
「……余計怪しいだろ、これ」
「ワガママイウナヨ、姿ヲ隠スニハソノ形ガ一番ナンダゼ」
声はなかなか止まらなかった。
話が盛り上がっているんだろう。まるで旧友の再会のように。
本当に、楽しそうに。
「ナア坂春、コレヲ見知ラヌ変異体ニ与エテクレ。ソシテ1日ダケ一緒ニ付キ添ッテ、使イ心地ヲ聞イテキテクレナイカ」
「……報酬は?」
「友人ノオツカイニ金ヲカケルナラ、研究所ノ設備ニ使イタイ」
奇妙な声にあきれるように、老人のため息が聞こえる。
それに続いて、奇妙な声の笑い声が響いた。
「ソンナ暗クジメジメシタ見方ヲ変エルチャンスカモシレナイゾ?」
男は、毛布を投げ出した。
窓から差し込む光が、男を照らしていた。
Chapter1 バックパッカーと変異体
「懐かしいところだな……」
人気のない田舎道に立つ、一件の家。
その前にふたりの人影が立ち止まっていた。
「“
ひとりは、黒いローブを見に包んだ人物だ。
フードを被っていて顔が見えないが、そのシルエットは女性のような形をしている。その声を他人が聞くと、寒気を感じそうなほどの奇妙な声をしている。
背中には、黒いバックパックが背負われている。
「ああ、ちょっと雨宿りさせてもらうつもりが、そのまま一晩泊まらせてもらったことがある。ここの家主が発明家でな、その発明品に興味をそそられたんだ」
もうひとりは、黄色いダウンジャケットを身にに包んだ老人だ。
“坂春”と呼ばれたその老人は懐かしむように目を閉じているが、顔が怖い。
「ハツメイヒンッテナニ?」
ローブを着た人物が首をかしげる。
「新しい便利な道具だ。あいつは、主に“変異体”の役にたつものを発明していたな」
「変異体ノ役ニ立ツモノ……タトエバドンナノ?」
「“タビアゲハ”、おまえが着ているものだ」
タビアゲハと呼ばれた人物は、自分の着ているローブのを見て、
「コレ?」
と両手を肩まであげて、坂春の方向に体を向けた。
ガチャ
「ア……」「……!?」
玄関の扉が開かれ、誰かが出てきた。
その誰かは、30代ほどの年齢の男で、眼鏡をかけている。
男は家の前にいるふたりを、不思議そうなのか、はたまたうっとうしいようなのか、にらんでいた。
タビアゲハは坂春の後ろに隠れるように移動し、坂春は男を見つめながら右手を震わせていた。
その手は、人差し指を立て、それを男に向ける。
「あんた……どうして人間に戻っているんだ!?」
その声で思い出したのだろうか、
男は目を見開くと、「ああ……」と静かに驚いた。
「君は……坂春か。久しぶりだな」
「質問に答えてくれ! なぜ人間に戻っている!?」
坂春は叫んだ。起こるはずのない現象に戸惑っているかのように。
「僕の発明に不可能はない。そのことぐらい、君はわかっているだろう」
「いったいどうしたらそうなったんだ!?」
「それは言えないな。他人に勝手にマネされては困るのでね」
男は鼻で笑う。坂春はそれでもまだ納得ができないのか、首をかしげた。
その様子を見ていたタビアゲハは、坂春の肩をつつき、声が男に聞こえないように耳元でささやく。
「アノ人ガ……ハツメイカ……サン?」
「ああ……俺が合ったころは変異体だったはずだ。だがあの男は、あいつが写真で見せてくれた、あいつが人間だったころの姿をしている……」
男の視線は、坂春からタビアゲハに移った。
「お嬢さん、そのローブの使い心地はいかがかな?」
「……」
タビアゲハはすぐに黙り込み、坂春の後ろに隠れた。
「心配する必要はないさ、僕は変異体のために研究をしている。そのローブも僕の発明品のひとつなのさ」
男の言葉を聞いたタビアゲハは、確認するように坂春の表情を見つめる。
坂春がタビアゲハを見てうなずくと、タビアゲハは恐る恐る前に出た。
「コレッテ……アナタガ?」
「ああ、もしよかったら発明品を見てみないか? それに、わざわざ来てもらった君には人間に戻る方法……教えてあげてもいいけどね」
「……坂春サン、私……ハツメイヒンニ興味ガアルンダケド……」
「……わかった、少し邪魔させてもらおう。おまえにも聞きたいことがあるからな」
Chapter2 影と触覚
暗闇の中に、光が入りこむ。
その光から、3つの人影が現れる。
光はだんだんと細くなり、扉の閉まる音とともに、部屋は再び暗闇に包まれる。
ごつん
その部屋は完全な暗闇ではなかった。
窓の前に設置されたカーテンは、ほんの少しの光を取り入れていたのだ。
ごつん
その部屋に置かれている何かが、独特なシルエットを作っていた。
その中を、3つの影が通っていく。
ごつん
……先ほどから、何かがぶつかる音が聞こえている。
「いててて……」
「坂春サン、コレデ3回目ダケド……」
「このごちゃごちゃした機材も相変わらずだな。ぶつけた場所がまったく一緒だ。これで照明のスイッチが向こう側にあるなんてな」
「そんなことは気にする必要はない。むしろ面白いだろう」
「タシカニ」
「確かにってなあ……タビアゲハ、こんな暗闇でも見えるのか?」
「ウン、タブンコノ触覚ノオカゲダト思ウ」
「はあ、人間でいることも不便かもな……」
ごつん
坂春、本日4回目の激突。
「いっつ……今度はくぐるのか……まったく、バリアフリーのなっていない研究所だ」
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