15話 格闘家?エルティナ⑤
街の表の大通りからは少し離れた落ち着いた住宅街。
エルティナたちの拠点である家はその一画に位置していた。
表の大通りから見えるのは白く塗られた石造りの街並みだらけだったが、一本路地を挟むだけで木組みの落ち着いた住宅が多く並んでいて、また違った雰囲気が味わえる。
ファレルとアキネスの二人はさっさと家に入っていくがエルティナは僕の方を向いて立ち止まった。
「さあさ、新入り君も入って入ってー!どうせ三人で住むには大きすぎる家だったからさ」
確かに、外側から見ても家の大きさはかなり広そうで、住むとしたらそれこそ大家族か貴族くらいのものだろう。
というかシェアハウスは何気に初めてでそう思ったとたん、ワクワクし始める。
「それじゃあ、失礼しまーす」
玄関から中に入ると廊下との段差がほとんどない玄関で、欧米なら確実にこのまま土足で家に入るのだろうが、どうやらこの家では玄関で靴を脱ぐように決められているっぽい。
それは、ファレルとアキネスの靴が玄関に置いてあったからだ。
ファレルの白いブーツとアキネスが履いていたのであろう雪駄が綺麗に並べられている。
僕は自分の履いていたスニーカーを脱いで並べると、スリッパがないことに気がついた。
一緒に入ってきたエルティナはどうするのだろうかと思ったが、革靴を脱いだ後は普通に廊下を歩いていたのでスリッパが無いんだと分かる。
「家に入る時には何か別の履物を履いたりはしないんですね」
「いや、スリッパは洗面所に置き忘れちゃってて、今からお風呂入るしいいかーって思って。一緒にお風呂入る?」
「遠慮しておきます」
エルティナはいたずらっぽく笑ったがマジで冗談にならない。
そもそも普通にスタイル良いし何がとは言わないが大きい。ほんと落ち着いて風呂にも入れないよ……。
さっさとエルティナがお風呂に向かってしまったので少しの間この家の中を散策することにしてみた。
自分の部屋どころかどこに何があるのかも分からないのではこれから暮らしていくにあたっても不便だろう。
最低限必要そうな場所は把握しておく必要がある。
と言っても、玄関からは早速左右への分かれ道があり、しかもここから見るだけでもかなりの扉がある。
とりあえずエルティナが向かったのは右側だったのでおそらく右は風呂場がある。
じゃあ左かなーというような考えで左へと向かっていった。
そして目星をつけてドアをノックしてみる。
「リビングなのでノックはいりませんよー」
ファレルの声。よし、リビングなら大丈夫そうだと思ってドアを開けると、相当広いLDKが見えた。というか、わざわざ目星をつけたのだが悩んだうちのどこから入ってもこの部屋にたどり着くという事実が判明する。
「広いですねー。これは確かに三人じゃ広すぎますよ」
リビングにはカーペットが敷いてあり、その上に長机とソファ、端の方には木製の本棚がある。本棚の中には誰の趣味なのだろうか本がぎっしりと詰まっていることも分かった。
ファレルはソファにちょこんと座っている。全体的に物がシンプルに高価そうなのでただ一人座っているだけではどうにもアンバランスなような気がした。
僕はファレルが座っているソファに腰を掛けると、ファレルに話しかけた。
「アキネスさんはどこにいます?」
「ああ、アキネスさんはお風呂に入っていきましたよ。……あれ?どうかしましたか?」
僕はこれから起こることが何となく予測できてしまったので少し寝たふりをすることにした。そして、その後すぐに風呂の方から声が聞こえてくる。
「今は俺が入ってるんだぞ!勝手に入ってくるなー!このー!」
アキネスの怒鳴り声とどたどたと聞こえる足音、リビングの扉が開き、誰かが入ってくる。
「エルティナさんどうしました……って、なんですかその格好は!服着てください服!っと、アキくんは見ちゃダメです!」
ファレルの手が目に覆いかぶさった。当然ながら、何も見ていない。
何も見ていないのだが……。ファレルの手のぬくもりは何とも言えず温かく、これはこれでいいと思ってしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます