第35話 感謝の気持ち
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「優佳さん!」
最後まで悩んでいたが、言わなければ後悔すると思い、優佳さんに声をかける。
「よかったらまた一緒に、今度は美零さんも誘って3人で見に行かない。」
「!?」
大翔が声をかけると、優佳さんは驚いているような、悲しんでいるような表情をしていた。
(あれ、俺もしかして優佳さんの地雷踏み抜いた!?)
「あ、その、嫌だったらごめん。突然変なこと言ってごめんね。あ、そうだ。俺みんなのとこ行かないと。じゃあね。」
優佳さんの反応が大翔の想像とは全く違ったため、どうすればいいのかわからなくなり、完全にキョドってしまった。
優佳さんがなぜあんな顔をしたのかわからないが、大翔の気が付かないうちに優佳さんを傷つけてしまっていたのかもしれない。
いつもニコニコしている優佳さんだからこそ余計に悲しそうな顔は似合わない。
大翔は適当な嘘をついてその場から逃げ出そうとした。
「あ、ごめん。嫌とかそういうわけじゃないんだ、、、うん。」
逃げようとした大翔だが、いつもの優佳さんからは想像できないほど小さく、か弱い声に止められる。
「ごめんね。ちょっと考え事してた。気にしないで。」
「そっか、えっとー。本当に大丈夫?」
「うん。全然大丈夫。」
「ならいいんだけど、、、」
大丈夫と優佳さんは言っているが、優佳さんの目もとには涙がたまっていた。
「そうだ、誘ってくれた返事がまだだったね。もちろん。絶対行こう!」
「ほ、ほんとに。」
「うん。約束だよ!」
「そっか、よかった。俺はそろそろ皆の所に行くけど、今日は偶然とはいえ一緒に見れて楽しかった。ありがとう。」
「私も楽しかったよ、、、」
さっきまでの優佳さんの反応からは考えられなかった返事に、大翔は正直驚いた。
優佳さんの顔を見ると、さっきまでの表情が嘘のような穏やかな表情をしていた。
「大翔君。」
再び松葉杖を手に取り、今度こそみんなの所へ向かおうとすると、今度は優佳さんに声を掛けられた。
「ん?どうしたの?」
「今のうちに大翔君に伝えておこうと思ってね。私さ、大翔君には本当に感謝してるんだ。今も私と美零のこと誘ってくれて。」
「いや別に感謝されるようなことじゃないし、むしろ迷惑じゃないか俺は心配で。」
「そういうところに感謝してるんだよ。大翔君のそういう無意識の優しさに私も、美零なんか特に助けられてるんだよ。」
『感謝している。』なんて今まで言われたことがない大翔はなんだか恥ずかしくなり、なんて言えばいいのかわからない。
というか、そもそも何に感謝されているのかがわからない。
「たぶん大翔君が思ってるよりもずっと、美零は君のことを大切に思ってる。」
「だからさ、美零のことを見捨てないでほしいんだ。」
「・・・え?」
優佳さんと美零さんが大翔に感謝しているというところから、突っ込みたいところではあったが、優佳さんが真面目に話をしているので何も言わないでいた。
だが、最後の優佳さんの言葉には自然と疑問の言葉が出てしまった。
そもそも、あんなにも大翔に優しくしてくれている美零さんのことを、好きになることはあっても、嫌いになるはずがない。
むしろ、毎日のようにお見舞いに来てくれている美零さんや優佳さんに感謝しているのは大翔の方だ。
美零さんや優佳さんに大翔が見捨てられることはあっても、その逆は絶対にありえない。
「美零は大翔君のことを大切に思ってる。だからこそ、大切に思ってる君にだからこそ言えないこともあると思う。」
「でも、それは全部大翔君のことを思っての行動だってことを、君にはちゃんと知っててもらいたい。」
「美零とずっと友達でいてもらいたい。」
美零さんとずっと友達でいてもらいたい?そんなことはこちらから願わせてもらうことで会って、優佳さんに言われるようなことではない。
優佳さんの言っていることが大翔にはあまりよくわからなかった。
だが、そんな大翔にもわかることはある。
「そんなわけない。」
「え?」
「そんなわけないよ。優佳さんと美零さんが俺に何を隠しているのか知らないし、それを聞く気もない。」
「でも、2人が俺に何を隠していようと、俺が2人のことを好きなことに変わりはないよ。」
「だってそうでしょ。今日優佳さんと一緒に試合を見たことも、今まで2人がお見舞いに来てくれたことも全部。俺は楽しいと思った。」
そうだ。本当なら退屈なはずの病院生活も、2人がいたからいつだって楽しかった。
「2人が俺にどんなことを隠していたとしても、そのことに変わりはない。」
「だから俺が美零さんを見捨てることなんて絶対にないよ。」
そう、これは大翔の本当の想い。今の言葉に嘘はない。
「ほん、と?」
「うん。そんな嘘なんてつかないよ。」
「そう、、、よかった。」
優佳さんの声は若干震えていた。それに、最後の方は大翔にはほとんど聞こえないくら小さな声だった。
異変を感じ、優佳さんの顔を見ると、今まで気が付かなかったが、優佳さんの目には涙の跡があった。
(え!?俺はまたやってしまったのか!原因は、、、あれか!?)
「あ、あの、さっきの2人のことが好きって言ったのは、友達としてって意味で別に変な意味じゃないから。あの、、、すいません!!」
原因は定かではないが心当たりはあるし、優佳さんを泣かせたのはこの場には大翔以外に考えられない。
そのため、大翔は松葉杖をしているこの状態でできる一番深いところまで腰を折り、謝罪をした。
「そんな!大翔君に悪いところは何もないし、危ないからやめて。」
「優佳さんを泣かせた責任は重罪だから、本当はこんなんじゃ足りないくらいです。すいませんでしたぁ!」
「いや、本当に大翔君は悪くないんだ。だから、ね?」
そんな風に言われてしまえば辞めざるを得ない。
顔を上げ優佳さんの方を見ると、いつものような優しい雰囲気の優佳さんに戻っていた。
「その、変なこと言ってさっきはごめんなさい。」
「ううん。全然気にしないで。っていうか、私はそんなこと言ってくれてうれしかったし。」
「そ、そうですか。」
うれしいと言われると、それはそれでかなり照れる。
「大翔君?」
「うん。どうしたの?」
「
「う、うん。2人が良ければ俺はいつでもいいよ。」
『また誘って。』と言ってくるということは、嫌がられてはいないということだろう。
それが分かった途端に、大翔の中の謎の緊張感が解けた気がした。
「それじゃあ、俺はそろそろ皆のとこに行かないと。」
「うん。そうだね。最後に変な話しちゃってごめんね。」
「全然気にしないで、それじゃあまた木曜日に。」
「うん。またね。」
今度こそ大翔は皆のところへ戻る。
気が付くと、試合が終わってからすでに10分以上が経っていた。
思っていたよりも時間が過ぎていたため、ただでさえ少ない皆と過ごせる時間がさらに減ってしまったが、今回優佳さんと話せたことは大翔にとってはとてもよかった。
【あとがき】
最近優佳さん回が多いです。美零さんや藤咲さんの回が少なくて本当にすいません。
そろそろ、物語がどんどん進んでいくと思います。ゆっくり待っていてくれると嬉しいです。
コメント、フォロー待ってます!作品を評価してくれると嬉しいです。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
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