第35.5話 美零の土曜日[番外編]
✤
―――ピピピピ、ピピピピ、ピピピピ、ピピ。
「...んん。」
朝の6時、目覚まし時計に起こされ、目を覚ます。
(うぅ。寒いよ~。)
すぐに起き上がろうとするも、布団の外の寒さに負け、寒さに慣れるまでの間はおとなしく布団にくるまっていることにした。
目覚めてから約10分後、全く外に出る気になれないが、諦めてベットの外に出る。
そして、すぐに洗面所へ行き、肌のお手入れをする。
洗顔をしてすっきりした後、日課であるストレッチをして体をほぐす。
その後、ストレッチでかいた汗を流すためにシャワーに浴びる。
これが美零のルーティーン。
朝が苦手な美零にはこの時間に起きること自体がかなり厳しいのだが、モデルであり続けるためにはこれくらいの努力は必須だろう。
朝ご飯は、野菜やフルーツを中心としたヘルシーなスムージーで済ませる。
本当はもう少し食べたいところだが、最近は大翔君のお見舞いに行くたびにお菓子を食べているため、それ以外ではできるだけ食べる量を減らしている。
朝食の後は、身支度を済ませ、今日の仕事場へ向かう。
今日の仕事は、都内のスタジオで午後まで雑誌の撮影になっている。
電車に乗っている途中、美零は大翔からの誘いを断ってしまったことを後悔していた。
本当は美零も、数日前に大翔君から誘われたサッカーの試合を見に行きたいところだった。
だが、さすがに前から決まっていた仕事を休むわけにもいかず、適当な嘘をついて断ってしまった。
(あーあ。大翔君と一緒にサッカーの試合見たかったな。)
だが、こればかりは仕方がないと、今は大翔君とのサッカー観戦のことは忘れ、仕事の頭に切り替えることにした。
9時半ごろスタジオに到着し、スタッフと打ち合わせをした後、衣装に着替え、メイクをし、その後撮影がスタートした。
スタッフの要求に応えながら撮影をしていく。
モデルの仕事を始めたばかりのころはぎこちなかった笑顔も、今では撮影スタッフに言われる前に表情を作ることもできるようになった。
イメージに合わせて自分で考えて動いたり、カメラマンに指示されたポーズをとる。
一通り撮影を終えた後、少し遅めのお昼ご飯を食べる。今日のお昼は、マネージャーに渡された唐揚げ弁当だった。
今日は夜に優佳とご飯に行く約束をしているので、弁当を半分ほど残して再び撮影に戻った。
そんなこんなで、予定よりも少し早めの3時過ぎに撮影を終わらせることができた。
写真をチェックした後、着替えや挨拶を済ませ、スタジオを後にする。
その途中、マネージャーに『また
最近は仕事が終わった後や、仕事の前、さらには遅刻をしてまでお見舞いに行ったこともあったので、それがマネージャーの口調になってしまったようだ。
電車に乗り、目的地の横浜駅に到着したが、予定していた時間よりも仕事が早く終わったせいで、だいぶ早い時間に到着してしまった。
待ち合わせ時間までは、近くのカフェに入って移動の時の暇つぶし用に持ってきていた本を読んで時間をつぶすことにした。
「みーれーいー!」
読書をしていると、広場の方から美零と待ち合わせしていた人物の桐嶋優佳が小走りでやってきた。
「ちょ、優佳!そんなに大きい声出さないでよ。すごい見られてるでしょ。」
中の席が埋まっていたため、美零はテラス席に座っていたため、外にいた大勢の人から注目されてしまった。
「そんなに気にしなくても大丈夫だって。美零は気にしすぎだよ。」
「優佳はそこらへんもっと気にした方がいいと思うよ。・・・ていうかどうして休日なのに制服着てるの?」
学校は無いはずなのだが今日の優佳がなぜか制服を着ていた。
「ちょっと学校に用事があってねー。あ、そうだ!学校に行ったら偶然大翔君と会って、一緒にサッカーの試合見たんだー。」
「!?」
制服を着ていた優佳を見て、一瞬その考えが美零の頭をよぎったが、まさかその通りだったとは思わなかったので、驚いてしまった。
「そうだ!なんで今日試合があるって教えてくれなかったのー。」
少し不貞腐れたように聞いてくる優佳にたじろいでしまう。
「ごめんごめん。優佳も忙しいと思って言うの忘れてたよ。」
「ほんとかなー?美零が行けなくて、私と大翔君を2人っきりにさせるのが嫌だったからとかじゃなくて?」
「そんなわけないでしょ。普通に忘れてただけだよ。」
「・・・ふーん。まあいいけど。じゃあさっそく行きますか!」
(今の謎の間はなに!優佳のことだからまたなにか勘違いとかしてそう。)
優佳がなにを考えているのかがいまいちわからずに、少し怖い気もするが、とりあえず優佳についていくことにする。
今から行こうとしているお店は、優佳が1カ月ほど前から行きたいと言っていた、イタリアンのお店だ。
目的地に到着し、案内された席に座った後、とりあえず美零も優佳もパスタを注文する。
その後も、ピザやデザートなどをたくさん食べ、1時間ほどで店を出た。
「うぅ~。ちょっと食べすぎたかも~。おなかが痛いよ~。」
「私もあんまり言えないけど優佳は少し食べすぎだよ。」
美零も途中、『食べすぎではないか?』と思ったが、目の前の優佳がそれ以上に食べていたため、つい食べ過ぎてしまった。
そんな食べ過ぎの優佳は、おなかが痛いらしく、先ほどからおなかを抑えながら歩いている。
「ねー美零。あとどれくらい?」
「もうすぐだから頑張って。」
「うぅ~。しんどいよ~。」
店を出た後、突然優佳が海に行きたいと言ったので、今は美零もそれに付き合っているのだが、言い出した優佳の方が先に根を上げだした。
だが、海まではあと少しなので、優佳には頑張ってもらうしかない。
海の見える公園に着き、近くにあったベンチに腰を掛ける。冬の夜の海風はとても寒かった。
「はぁー。やっと着いたよー。」
「優佳が急に変なこと言いだすからだよ。」
「えへへ。だってなんか来たいと思っちゃったんだもん。」
「なんかって、、、まあ私もこの場所好きだからいいけど。」
そう。この場所は美零のお気に入りスポットなのだ。何か考え事をするときなどにも来たりする。
「で?突然こんなところに来たいなんてどうしたの?優佳は何もないのにこんなところに来ないでしょ?」
「ギクッ。やっぱり気づいてたかー。鋭いね。」
「もう長い付き合いだからね。」
「そっかー。」
美零の言葉に、優佳は楽しそうな、うれしそうな顔をしていた。
「今日ね。大翔君とサッカーの試合を見たんだ。」
「うん。さっき聞いたよ。」
「試合が終わって帰ろうとしたときに大翔君がね。今度は3人で見ようって言ってきたんだ。」
「!?」
「私はびっくりしちゃってすぐに返事ができなかったんだ。」
「そっか。」
なぜ優佳がその時すぐに返事ができなかったのかが美零にはわかる気がした。
もし美零がその場にいたとして、同じことを言われてもなにも言うことができないであろう。
「それでね。柄にもなくネガティブなことを言っちゃったり、大翔君にはよくわからないだろうことも言っちゃたんだ。」
「でも大翔君はね。それでも2人のことを好きなことには変わりないって言ってくれたんだ。」
「!?」
優佳の言葉を聞いた瞬間声が出なくなった。
「大翔君がそんなこと言うから私少し泣いちゃったんだ。おかしいよね。そんなことできないってわかってるのに。それでも涙が止まらなかったんだ。」
「美零が大翔君と関わるのを辞めたら私と大翔君の関係もそれで終わり。わかってた。」
「最初はそれでいいと思ってた。でもね、最近になってそんな終わり方はやだって思うようになったんだ。」
その気持ちは美零にも痛いほどわかる。この時が永遠に続けばいいとずっと思っている。
だけどそんなことは許されない。それが美零の決断だから。
不意に、優佳がどんな表情で話をしているのかが気になったので、目線を優佳に向けてみてみると、優佳の頬には涙が流れていた。
「だからさ、今なら美零の気持ちが私にもわかるんだ。こんなことを言っても何も変わらないかもしれないけど言っとくね。」
「そんな終わり方は絶対に間違ってる。」
「・・・」
何も言い返すことができない。それは心のどこかで優佳と同じことを美零も思ってしまっているからだろうか。
決めたはずだった。大翔君の優しさに甘えてはいけないと、
だが、その決断も優佳の言葉で揺らいでしまった。
「美零。我慢なんてしなくていいんだよ。自分を許してあげてもいいんじゃない?」
「・・・」
「大翔君もきっと許してくれる。だからさ、、、3人で見に行こうね。」
「・・・」
返事をすることができなかった。今ここで美零の本当の想いを口にしてしまえば、戻ってこれなくなる気がした。
街灯が美零を照らす。美零の頬には涙の後があった。
【あとがき】
話を進める前に美零視点の番外編をやってみたいと思ってたんですが、思っていた何倍も長くなってしまいました。
それに、最初はもっと日常的なほのぼのした感じにする予定だったんですが、最後の方は少し重い内容になってしまいました。すいません。
コメント、フォロー待ってます!作品を評価してくれると嬉しいです。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
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