第78話

 夏祭りデートが終わり、数日が経ったある日。

 いつものように朝起きると、五月雨が枕元で小さく体を丸めながら寝ていた。

 けど結衣や母さんの声が聞こえない。


「顔洗ってこよ……」


 洗面所に行って、顔を洗って目を覚まし、五月雨のエサと軽く朝食を用意して、そのまま自分の部屋に持っていく。

 俺達だけの寂しい朝食、部屋にあるパソコンでネットサーフィンをしながらお気に入りの曲を聴く。


「琴音遅いな……」


 何時もならもうとっくに来てるはずなのに、今日は何の連絡もない。久し振りの一人になった俺は、少し寂しいと思っていた。


 寂しい、か……前なら全然思わなかったのに……。


「みゃーお」


 今日は五月雨とこうしてゆっくりするのも悪くないかな?




 ☆




 そして昼、俺は五月雨とじゃれ合っていたら、突然スマホが震え出す。誰だと思って画面を見ると琴音からだ。


「もしもし?琴音?」


『もしもし?開けようとしたら鍵掛かってて入れないんだけど開けて貰える?』


「分かった、今行く」


 俺は急いで玄関に向かった、琴音にやっと会えた嬉しさなのか、寂しい気持ちから来るものなのか分からない。

 とにかく会いたかった。こんな気持ちを抱くのは久し振りだった。


 鍵を開けて琴音を出迎え、熱い抱擁で俺は幸せを噛み締めていた。琴音は少しだけ驚いて、まるで子供をあやすような感じで声をかけてきた。


「今日はどうしたの?」


「それはこっちの台詞だ……ずっと待ってたんだぞ……?」


「~~~っ!そ、そう……ごめんなさい」


 やけに琴音の顔が赤いような……?普段なら軽口叩いて笑ってやり過ごすはずなのに。


「琴音……?」


「な、何?!」


 反応からして凄く怪しい。いつもと様子が違う。


「どうしたの?いつもと全然違うからさ」


「な、何でもない!拓人の気にしすぎじゃないの!?」


 そんなあからさまな反応されると逆に気になるんだけど。


「ごほんっ……拓人、今から私とデートしましょ?」


「良いけど、どうして?」


「久々にしたくなったから……?」


 いやそんなこと俺に聞かれても分からないって……。


「と、とにかく行きましょ?」


 俺はほぼ無理矢理外へと連れ出される。




 ☆




 ほぼほぼ無理矢理連れ出された俺は、スマホ以外何も持ってない。琴音はそんなことお構いなしに腕を絡めている。


「デート行こうと言ったは良いけど、どこ行くの?」


「たまにはこうしてゆっくり歩くのも良いじゃない?拓人はずっと勉強しててろくに運動してないでしょ?」


「たまに走ったりしてるけど……?」


 そこまで俺引きこもりだと思われてるの?何か泣きたくなってきた。


「走ってるだけじゃダメ、もっとちゃんとした運動もしなきゃ」


 俺と琴音はショッピングセンターに向かって、なぜかゲームセンターに連れていかれた。

 ジムにでも連れていくのかと思っていたから、少しだけ拍子抜けしてしまった。


「久し振りに行ってみたかったの」


「琴音ってあんまり好きそうじゃないからなんか意外だな」


「あら、そうなの?ふふっ」


 俺達はいろんな媒体で楽しく遊んで、時には競ったりしていた。裕貴と行く時と違って、心の底から楽しいと思った。

 そしてゲーセンデートの定番であるプリクラの前に来ていた。琴音もやるんだなプリクラ。


「ほら、ボーッとしてないで行くわよ?」


「あ、ああ……」


 とはいえ琴音と付き合っていても、ここに来るのは多少なりとも抵抗はあった。なんせ周り女子ばっかだからな。

 琴音に負けず劣らずな女子が周りに居るせいか、目のやり場に困っていた。少なからず学校の連中も居るから夏休み明けが恐ろしい。


「いででっ!」


「……鼻の下伸びてる」


 腕をつねられて、白い目で見られて、頬を膨らませて久々にヤキモチを妬いている琴音であった。


 本当可愛いなぁもう……。


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