第77話

 俺ら三人はカラオケを機に、日に日に親交が深まっていった。有原がかなり面白い奴で笑いが堪えなかった。


 そして夏祭り当日。

 俺ら三人は自分達の彼女を待ちながら、どんな姿で来るのか予想し合いながら、俺と琴音が出会う交差点の近くで待っていた。


「楽しみですね先輩方」


「だな、皆似合ってるといいな」


「……にしても遅いよな?」


 予定時間まで後少しなんだけど、あっちは浴衣で少々歩きづらいから多少の誤差は仕方ないだろう。


「早く見たいのは俺らも同じだから、少しぐらい我慢しろ」


 俺は壁に凭れて何時ものようにイヤホンで音楽を聴きながら待ち、裕貴は有原と二人で暇を潰していた。


「ごめーん!遅くなっちゃった!」


 川島さんの声が聞こえ、俺達は声がする方へ視線を向けるとそれぞれ言葉を失っていた。

 俺に至っては、もうなんと言葉にすれば良いのか分からないぐらい琴音の浴衣姿がめちゃくちゃ可愛くて、めちゃくちゃ綺麗で、めちゃくちゃ似合っていた。


「ふふーん、どうだひろくん!似合ってるでしょ?」


「美咲らしいっつーか……なんつーか……似合ってる」


「えへへ!」


 あのバカップルは放っておいて、結衣と有原はなんとも初々しく激甘な空気が漂っていた。二人とも顔真っ赤だし。


「「……」」


 でもちゃんと手を握った有原は凄い。少々不安だった結衣も少し安心しているようだった。


 それ俺達。


「な、何とか言いなさいよ……」


「……えっ、あっ……と、に……似合ってます、はい」


 本当に俺の彼女で良いのか?ここまで完璧に浴衣姿が似合う人を見たことがないぐらい、俺は彼女に心奪われ、顔が熱くなっていくのが分かった。


「!そ、そう……似合ってる、か……えへへ」


 くそっ……めっちゃ抱き締めてえ!


 俺達はそれぞれの想いを胸に秘めたまま、会場へと足を運んでいった。




 ☆





 会場に着くや否や、案の定あのバカップル二人は早々にどっか行ってしまった。あいつ等らしいと言えばらしいけど。

 残された俺達四人は、はぐれないように琴音は腕を絡めて抱き付き、結衣らも同様にはぐれないように恋人繋ぎで出店を回っていく。


 一通りのものを買った俺達は、休憩スペースで一息ついていた。結衣と有原に心配されたけど、二人きりにしてあげたかったのと、琴音と二人きりになりたかった思いと、気持ち悪くて休みたかった。


「だ、大丈夫?凄く死にそうな顔してるけど……」


「だ、大丈夫……人混みに酔っただけだから……」


 後少しで吐きそうだった、今辛くて少し休憩したい。


「ほ、ほら……はい、あーん」


「えっ……?いや琴音さん?」


 やっと落ち着いたとはいえ、いきなりはちょっと……。


「良いから食べなさい、ちょっとは気も紛れるでしょ」


「い、いや……でも」


「早く食べなさいって……み、見られてるんだから……」


 心なしか琴音の顔が、これ以上見たことないぐらい真っ赤だった。俺はそのままたこ焼きを口に運ぶ。


「あっつ!はふはふ……」


「ご、ごめんなさい!大丈夫?」


 俺は大丈夫だと頷いて、口に入れたたこ焼きを飲み込む。琴音も少々安堵したようだ。


「……そろそろ花火の時間だから、いこっか」


「え、えぇ……」


 そのまま二人きりになるために、会場から少し離れた俺達の思い出の地である公園まで移動した。

 ベンチに座り、琴音は頭を肩に乗せ、甘えてきた。


「そういや最近、勉強頑張ってるけど……どうして?」


「……ちょっとでも釣り合いたくて、さ」


 俺は彼女とは違い、勉強が出来ない。だからちょっとでも頑張ってみたかったってのもあるけど、本当の理由はそれだけじゃない。


「一緒の大学、行きたい……から」


 別に同じ学部じゃなくても良い、ただ一緒に行きたい、琴音の傍にずっと居たい、それだけ。


「拓人……あっ」


 一輪の華が夜空に咲いた。花火が始まった。花火に見入ってる琴音の横顔はとても綺麗で、ずっと見ていたくなるぐらいだった。


「私も拓人と一緒の大学行ってみたい、今よりももっと楽しい日々が待ってると思うから」


「琴音……」














 俺達はキスをして、手を繋いで、一緒に花火を見ていた。

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