第76話
意味もなく暇なだけな理由で呼ばれた俺は、裕貴に対して怒りが込み上げてきた。
「……俺帰る、有原も悪いな、こんな奴のために来て」
「い、いえ……!」
「おいおい、ここまで来て帰るなんてそりゃねえよ」
俺は裕貴を睨み付け、無言の圧をかける。
「……急に呼び出して悪かった」
俺は半ば諦めムードになり、この後どうするか考えていた。
「拓人、帰らねえのか……?」
「良いよ別に……息抜きも悪くない」
あまり根詰めて頑張っても、自分の為にならねえし、結衣や琴音が悲しむ。
それにお互い彼女と付き合うようになってから、前みたいに二人で遊ぶという時間が減ったってのもある。
「息抜き……?まあ良く分からんけどお前がそういうなら」
「あ、あのぉ……」
少し申し訳なさそうに手をあげ、俺はこの場に有原がいることを思い出す。
「まずはお互い自己紹介から、しませんか?」
そういや俺達お互いの事をよく知らないな。
「ああ、いいぞ」
「じゃあ俺から行くぜ、俺の名前は藤崎裕貴――」
「川島美咲さんと付き合ってて校内バカップル筆頭」
「おい!お前まだ怒ってるだろ!?」
はて、何の事やら。まあ流石に有原も引いてるからここまでにしておいてやろう。
「……先輩達仲良いんですね」
「ま、去年からの付き合いだし」
「俺も出来ますかね……そういうの」
有原には出来るんじゃないかなとは思っている。とはいえまだ一年生、これから色々な人と出会うはずから気長に待てとしか言えない。
「んじゃ次は俺、多分知ってるだろうけど芝崎拓人、結衣の兄だ」
「先輩は校内人気投票二年連続一位ですもん、知ってますよそれぐらい」
「……俺の彼女は上野琴音、まあよろしく」
俺はそれ以上言う必要もなく、簡単に終わる。
「来年はベストカップル賞も取るんです?」
「取らねえよ……割りとどうでもいいんだよあんなの」
ああ……一年の最初の一ヶ月が恋しい。
「何もしなくても、勝手に入ってるから安心しろって拓人」
「ぶっ飛ばすぞてめえ……」
「おう怖い怖い」
……ったくこいつは。
「えーっと…改めて初めまして、有原誠司です、部活はテニスやってます」
テニスか、こりゃまた随分なスポーツマンな子だな。
「勉強はあまり得意ではありませんが、運動は好きでいろんなのをやってました」
まあこの場に、現役バスケ部とガチでやりあえる化け物がいるけどな。
「………彼女は結衣ちゃん、です」
付き合って間もないせいか、凄く抵抗があるようだ。顔も赤い。ただひとつだけ気になったことがあった。
「有原はさ、どうして結衣の事好きになったんだ?」
「…………俺、引っ込み思案で友達と呼べる人が居なくて一人で過ごしてたんです」
なんだろうか、少しだけ俺と似ている部分がある。
「その時、声を掛けてくれたのが結衣ちゃんで……」
結衣に話し掛けられた事によって、塞ぎ込んでいた心を少しずつ開くようになって、気付けば憧れから好意に変わっていき、先週告白するに至ったようだ。
「そう……悪いな、少し嫌なこと思い出させてしまって」
「いえ、結衣ちゃんのおかげで、俺もこうして変われたので、全然気にしてませんよ」
この子なら結衣を幸せにしてくれそうだなと、確信した。
「んじゃ話も一区切りついたし、久々にカラオケでも行っちゃいますか!拓人」
「だな、有原はどうする?」
「い、良いんですか?俺が行っても……」
まあ少なからずこういうとは思ってた。だから俺は
「良いんだよ、裕貴が奢ってくれるから」
と、冗談混じりに言い放った。
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