第75話

 夏祭りデートを約束して数日が経って、私と美咲と結衣ちゃんとで祭りに来ていく浴衣を、それぞれ意見を出しながら決めていた。


 まずは結衣ちゃん。小柄ながらもしっかりと女性として見られるよう、藍色に花火が華やかに描かれている浴衣。

 彼氏くんに可愛くて綺麗に見られたいらしい。


 続いて美咲。身長は私達の中では大きめ、裕貴くんと一緒に居ると静かにするのは無理らしいので、ピンクに綺麗な花の絵が咲いてる浴衣。

 美咲らしいっちゃらしいけど、裕貴くん理由聞いたらなんて言うだろうな。


 それで私なんだけど……


「琴音、まだ決まんないの?」


「美咲が早すぎるのよ……」


 そう簡単に決まるものじゃないのに、何であっさり決めてるんだか……。

 私は紫の華が描かれたものか、黒の花火どちらにするか悩んでた。逆に言えば私に似合うのがこれだけ。


「ねえ結衣ちゃん、拓人はどっちが好きそう?」


 やっぱり、私の一存では決められない。拓人には私が一番として見られたいから。


「んー……お兄ちゃんは似合ってれば、そこまで気にしないと思いますよ」


 よりによって、一番厄介な答えが来てしまった……。

 どっちも似合ってるって言われてるから、決められないのに!


「想像してみて、一番嬉しい顔してる方で決めたら?」


「美咲……さっきの話聞いてた?」


 あー悩む!どっちも捨てがたいのに、どちらかってのが嫌らしい。この二つの間なら良いんだけど……。


 私は、今の二つから別のものを考え出した時に、とある一つの浴衣に目が止まった。これだ、これなら拓人が私の事もっと好きになってくれる。


「私これにする」


「おー、いいね!琴音っぽい」


「ですね、お兄ちゃんもっと惚れそうです」


 こうして私達の浴衣は決まり、当日までのお楽しみとなった。



 ☆



《拓人視点》


 琴音が女子だけで集まってる中、俺は男だけで集まっていた。なんでも裕貴じゃなく結衣の彼氏が呼び出したそうな。

 俺まだ会ったことないんだよね、結衣の彼氏に。


「……にしてもおせえな」


 近くの喫茶店で十時に集合と言われて、もうかれこれ十五分程が経過していた。帰って勉強したいんだけど……。


「お、早いな拓人」


「おめえが遅すぎるんだ、勝手に人呼び出しておいて遅刻とは良い度胸してんな?」


「良いだろうが別に、こうして集まれたんだしさ」


 ……なんで川島さんはこいつの事好きになったんだろう。


「で、この子は?」


 見知らぬ男の子が来てて、多分結衣の知り合いかなんかだろうと勝手に想像していたら。


「は、初めまして!有原誠司って言います!」


「あー……君が例の、結衣の事よろしくな」


「えっ……いや、そんな!とんでもないです……」


 まだ付き合って間もないカップルだからか、すぐに頬を赤らめている。初々しいなもう。


「まさかあの先輩が……上野先輩の彼氏さんだったなんて」


「……」


 俺は頭を抱え、小さく溜め息を吐く。


「あ、あれ……?俺変なこと言いましたか?」


「違う違う、多分一年にまで知られてて、相当来てるんだと思うよ」


「そう、ですか……」


 やっぱあの文化祭のせいだ、一年にまで顔知られてるの……ふざけんな。


「……裕貴、今日呼び出した理由は?」


 俺は本題を聞き出す。今は俺の事はどうでも良い。


「理由?ねえよ、今回は美咲がいないから久々にお前と遊びてえなって思っただけ」


 俺が呼び出されたの、たったそれだけの理由かい!

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