第72話 結衣の恋(後編)
昼食の後、ぎこちない雰囲気のまま、まだ行っていないアトラクションに向かっていました。
そ、そういや、あの時有原くん私の事……か、かの……彼女って……!
急に思い出してしまった私は、また有原くんの顔を見れなくなってました。
「芝崎さん大丈夫?」
「だ、大丈夫……れす!」
頭の中真っ白だし、恥ずかしすぎて呂律が回ってないよ~!
その姿を見られて何がおかしいのか、急に笑われました。
「な、なんですか!そんなにおかしいですか?!」
「ごめん……!なんかちょっと……ぷっくくっ……」
「む~!もう知りません!」
私はプイッと違う方向を向いて、ぷくーっと頬を膨らませて彼から背を向けました。
有原くんのバカ、どうして笑うんですか……!人が恥ずかしい思いをしてるというのに。
「思ったより可愛かったから、つい」
「か、かわ……!~~っ!!」
どうして有原くんに可愛いって言われると、胸がきゅーっとなって締め付けられるのか、お兄ちゃんに言われるよりも凄く嬉しいのか、大体分かった気がする。
まだ確証はないけど、明莉ちゃんの言う通り、有原くんの事好きになったのかもしれない。
「次行こうよ、時間はたっぷりあるんだからさ?」
彼の……有原くんのいろんな顔が見たい、もっともっと知りたい、もっと私だけにその顔を向けて欲しい、そんな気持ちでいっぱいだった。
「…………うん!えへへ」
☆
その後もいろんなアトラクションにいって、楽しんでいたら日が傾いていました。楽しい時間って本当にあっという間に過ぎちゃいます……。
時間的にもう最後、最後は自分が行きたい場所を選んでも良いよね……?
「有原くん、最後はアレに乗りたいです」
「観覧車……うん、分かった」
人が少なくなっていたおかげか、すぐに乗れました。この小さな空間に私と有原くん、二人だけ。
「……今日は誘ってくれてありがと、楽しかったです」
「俺も楽しかった、いろんな事が知れて……」
再び無言、隣同士ですけど手は触れる程度の距離。この距離感が今の私達みたいで、少しだけ寂しく感じました。
「今日一緒に回って、芝崎さんのこと色々と知れた気がするんだ……やっぱり好きだって……」
有原くんは少しだけ悲しそうな顔をしていました。
「……わ、私は…………やっと自分の気持ちが分かった気がする……」
「?それってどういう―――」
「私ね、有原くんのこと好き……みたいなの」
一度言ってしまえば、意外と想っていたことが、口に出てしまうのが分かった。
「えっ」
「私、有原くんの事が好き……!」
「芝崎さん……」
こんな子供っぽい性格で、女の子っぽい振る舞いなんて出来ないけど、それでも好きって言ってくれた。それが一番嬉しかった。
「私とお付き合い……してください……」
この人とならそんな自分を変えられるかもしれない、有原くんとなら楽しい未来が待ってるかもしれない。
もっと有原くんと一緒に居たい。過ごしたい。
「最初から答えなんて決まってる、よろしく芝崎さん」
「!うん!!えへへ……恥ずかしいねこれ……」
私達は見つめ合って、引き寄せられて、そのままファーストキスをした。短いけど、それで十分なぐらいなキス。
お兄ちゃん達って、こんな想いだったんだ……。
「しちゃっ……たね、キス」
「うん……こんなにふわふわするんだ……」
観覧車が一周するまでずっと手を繋いで、外の景色を眺めてました。有原くんと一緒に。
観覧車から降りて、閉園時間となって帰路に向かう途中、私は有原くんの下の名前を聞いたことがなかったことをふと思い出しました。
「そういえば有原くんって、下の名前ってなんだっけ?」
「え、誠司だけど……?」
「んー、誠司くんか」
「い、いきなりなんだよ……」
突然呼ばれたからか顔が赤い、でも本題はそこじゃない。
「付き合うんだからお互い名字なのは変でしょ?だから名前で呼びたいなーって」
「なんだそのことか、結衣」
トクンと胸が高鳴り、私も顔が熱くなってきました。
「ば、バカ…!いきなり呼ばないでよ!」
「さっきのお返しだ」
「「ぷっ……ははは」」
これからずっとこうして笑い合える、今はそれが一番の幸せです。
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