第70話 結衣の恋(前編)

《結衣視点》


 私とお兄ちゃんは食事に行った後、部屋で土曜の事を考えてました。

 お兄ちゃんに思い切って聞いてみたけど、私の頭ではいまいち理解できなかった。


「自分の気持ちに素直になれ、か……」


 そもそもこんなことになったのは、今日のホームルーム後でした。




 ☆




 高校生として初めての夏休みを向かえる私は、お兄ちゃんとどこかいきたいなーなんて考えてました。

 まあこと姉が許してくれるわけないですけど。


 私はクラスでは、そこそこ人気で友達は多い方です。


「じゃあね芝崎さん」


「うんまたね」


 友達と別れて教室の荷物を取りに行こうとした時でした。


「あのさ……芝崎さん」


 とあるクラスメイトの男の子に突然話し掛けられます。


「えっと……何かな?」


 その男の子とはあまり面識がないけど、よく男の子の中心に居る人でした。

 でもよく見ると顔が少し赤いような……?熱でもあるのでしょうか?


「単刀直入に言うね……俺、芝崎さんの事が好きなんだ、付き合って欲しい」


 へっ……?わ、私と……?

 幸い近くに誰も居なかったので誰かに見られるなんて事はありませんでしたが、気付けば私は彼の顔を見れなくなっていました。


「……駄目かな?」


「え、えと…!その……私そんなこと言われたの初めてだから……何て言えば良いか……」


「俺は本気なんだ、本気で好きになったんだ」


 彼に好きと言われて顔が熱くなって、胸がきゅーっと締め付けられていく。

 この気持ちは一体なんだろう?彼はどうして私なんかを……?分からない……。


「あっ!」


 気付けば私は彼から逃げていました。


「はぁ……はぁ……追ってきてないよね?」


 屋上に逃げた私は男女二人で仲良く帰っていたり、グループになって帰っている校舎を眺めていました。

 そういやさっきの人、誰だっけ……思い出せない。


「あれ?結衣ちゃんどうしたの?」


「あっ……明莉ちゃん」


 お兄ちゃんの幼馴染であり、私とも幼馴染でもある明莉ちゃんは屋上でなにやらあったらしいです。


「どうしたの?顔赤いよ?風邪でも引いちゃった?」


「そんなことないです……実は―――」


 私は明莉ちゃんに、ここまで何があったかを全部話しました。その時に私は告白してきた彼の名前も同時に思い出すことが出来ました。


「そっか、結衣ちゃんにもとうとう春到来か」


 明莉ちゃんは少し寂しそうな顔をしていました。

 やっぱりまだお兄ちゃんの事諦めきれてないんだ……。


「明莉ちゃんはまだお兄ちゃんのこと―――」


「好きだよ、でも私は良いの……たっくんが幸せならそれで」


 そうは言うけど目には涙が一杯でした。


「あれ……おかしいな?なんで涙が……止まらないの……!止まってよ……!うぅっ……」


「明莉ちゃん……」


 初めて人が失恋で泣いているところを見ましたけど、心に結構来ました。

 それだけその人の事、明莉ちゃんはお兄ちゃんの事が好きだったんだなって、伝わってきました。


「……結衣ちゃん」


「は、はい」


「まだその子の事、気になる?」


 えっと……有原くんのことかな?気にならないと言えば嘘になるし、かと言ってそうでもないわけでもない。

 だから私は小さく頷きました。


「そっか、告白されてどう感じた?」


「胸がきゅーっとなって、苦しくて、でも暖かかったです」


「そう……それってね、好きってことなの」


 これが……好きという気持ち?

 あの明莉ちゃんが言うんだからそうなんだろうけど、いまいち実感がない。


「後は自分で頑張って?私そろそろ行くね」


 明莉ちゃんは屋上を後にしました。私は有原君の事を思い出そうとすると胸がきゅーっと締め付けられて、また顔が熱くなりました。




 ☆




 あの後教室に戻ったらデートに誘われ、その事をお兄ちゃんに話して、そして今に至ります。


「はぁ……何着ようかな」


 私の私服はこと姉や明莉ちゃんみたいに身長がある訳じゃないし、胸もないし、子供っぽい服装しかない。


「無難にこれかな……?有原くんなんて言うかな」


 可愛いって言ってくれたら嬉しいな……。

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